【吉備国際大学 保健医療福祉学部 作業療法学科 准教授 京極真】
Q 転倒骨折で入院した高齢の患者さんがいます。退院後、安全に自宅で生活するには歩行器が必要です。いったんご本人も歩行器の購入に同意したのですが、同居している娘さんが「家には杖が幾つもあるから要らない」と反対しました。患者さんも困惑しながら「娘が反対するなら…」と渋々、歩行器の購入を断ってきました。患者さんとご家族で意見が食い違う場合はどうすればよいですか?
こうした問題では、解決を急がず、患者さんとご家族の話をよく聞きましょう。その上で、双方が納得できる「解」を見つけていくとよいです。それは、ベストな結果をもたらさないかもしれませんが、患者さんがご家族の意向に渋々従っているよりは、幾分マシな結果になると考えられます。
■一つ屋根の下で暮らしていても意見は一致しないもの
患者さんとご家族は、一人の人間として自立した存在です。つまり、個別の人格を持っているのです。たとえ一つ屋根の下で暮らしていても、意見が食い違うことは珍しくありません。なので、患者さんと医療従事者が話し合って歩行器の購入を決めても、後からご家族によって拒否されるのは当然起こり得ることです。
ここで、当初の「歩行器を購入する」という決定に従って、ご家族を説得しに掛かっても、おそらく反発が強くなるだけでうまくいきません。他方、ご家族の意向を尊重して歩行器を購入しないまま放置していたら、在宅生活における転倒リスクが増加することになります。つまり、患者さんの判断で推し進めても、ご家族の意向を尊重しても、望ましい結果が得られそうにありません。
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