【独立行政法人国立病院機構(NHO)久里浜医療センター 事務部業務班長 斎藤知二】
前回「価格交渉の進め方」では、病院内で医師を交えて検討することの大切さと目標となる価格の設定について解説しました。今回は当初、「改善事例」について解説する予定でしたが、価格交渉を行い、改善につなげるには、契約の相手方であるメーカーをはじめとする業界の特徴と商習慣について説明する必要があります。
そこで最終回は「医療機器・医療材料業界の特性」について解説します。この理解が価格交渉の成功には不可欠であり、改善へとつながる大切な部分です。
■病院は7割が赤字、卸売業者は利益率1%前後、メーカーは10%前後で安定的
さて、2018年度は診療報酬改定の年です。病院経営が非常に厳しい状況が続き、病院関係者にとって収入に直接関係する診療報酬改定への対応はかなり優先度が高い課題です。ところで、医療機関は利益を上げているのでしょうか?
全国公私病院連盟が日本病院会と行った17年病院運営実態分析調査(17年6月調査)によると、回答のあった629病院のうち、黒字病院は31.0%(195病院)、赤字病院は69.0%(434病院)であったとのことです。16年は72.9%が赤字でしたので、割合は減っているものの、全体の約3分の2は赤字なので、病院経営は厳しいままといえます。
一方で、医療機器・医療材料メーカーや卸売業者はどうでしょうか。
日本経済新聞社の「日経業界地図2018年版」を見ると、例えば医療機器の国内メーカーT社の17年3月期決算は、売上高約5141億円、営業利益約765億円、営業利益率14.9%の黒字です。また、他の国内メーカーのうち売上高、営業利益が掲載されている31社を見ると、赤字1社、営業利益率「1%以下」が1社、「1-9%」が16社、「10-19%」が5社、「20%以上」が8社。9割以上の会社が黒字で、31社中13社(42%)が10%以上の営業利益を出しています。全体として利益が出ています。
卸売業者は、中小企業を含めると国内にかなり多く存在します。代表例として医薬品も取り扱っている大手卸M社の17年3月期決算は、売上高約3兆639億円、営業利益約396億円、営業利益率1.3%となっています。また、これとは別の卸売業者M社の17年6月期決算を見ると、売上高約1626億円、営業利益約10億円、営業利益率0.6%で、卸売業者が薄利多売であることが分かります。もちろん、病院、メーカー、卸売業者のすべてが決算データを公開しているわけではありませんし、数社のデータで全体を見ることはできないといったご意見もあると思います。しかし、日々医療機関で勤務し、医療機器・材料業界との契約に長く関わってきた経験から、「病院は7割が赤字、卸売業者が薄利多売で利益率1%前後、メーカーは10%前後の利益で安定的」という図式は、現在の業界全体をほぼ表しています。メーカーの利益でいえば、例えば衛生材料の製造業者は、そもそも単価が非常に安価であり、利益率は低いので、ここでは除外して考えても、それ以外の医療機器メーカーは買い手である多くの病院が赤字であるのに、十分利益を上げています。
(残り2661字 / 全3985字)
この記事は有料会員限定です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
【関連記事】