【NPO法人イージェイネット代表理事 瀧野敏子】
■はじめに
私が代表を務めるNPO法人イージェイネットは、2017年から医療職向けのカウンセリング講座を開始しました。講座では、若手医師、看護師をはじめとする医療職と病院の人事・労務担当者などが、ストレス攻勢に脅かされつつも業界で生き残っていくため、(1)セルフケア(2)対患者スキル(3)管理者としての心掛け-を身に付けることを目的としています。
第1回は医療現場、特に病院で医師、看護師が直面するシーンとその背景を考えます。
■医師がリスペクトされていた古き良き時代
学生のころ、テレビで「タフでなければ生きて行けない。優しくなれなければ生きている資格がない」という角川映画「野生の証明」(森村誠一原作)のキャッチコピーを耳にしました。いまだに引用元であるレイモンド・チャンドラーによるハードボイルド小説も読まず、映画も見ていませんが、当時からこのフレーズは気に入り、(医療界とは無縁の話だとしても)「なんとカッコイイ、矜持をもった医者にぴったりのセリフではないか!」と長いこと座右の銘としていました。
医師が患者さんから「お医者さま」とリスペクトされていた時代です。職業生活においてつらいことはたくさんあっても、患者さんから感謝されることですべてが癒えていったシンプルで平和な時代でした。
■「患者さま」と言われて心得違いする患者
時は移り、「患者」は「患者さん」、時には「患者さま」となり、病院にかかることは、「対価を支払って、医療サービスを買うこと」だと言う人も出てきました。
先日も、クリニックに性感染症の血液検査を希望する患者さんが予約なしに訪れて、診察室に入るなり、突っ立ったまま「HTLV‐1も入れていくらや? 5分以内で次の用事のために出ないといけない」と言います。先に予約で来ている患者さんもいるので、5分では無理です。あなた中心に世界が回っているわけではない、と言うと、「あたしは時間つくって来てあげてるお客なのに、その言い草は何や」「アンタのその言い方が腹立つねん」と逆切れするありさまです。開業して14年になりますが、節度あるビジネスパーソンがほとんどのわが院では初めてのエピソードであり、時代の変化にいささか驚きました。
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次回配信は2月28日5:00の予定です
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