【岐阜大学医学部附属病院手術部 准教授 長瀬清】
手術医療の目的の1つは周術期医療の質向上である。手術医療はその専門性ゆえ、複雑で高度な管理が要求されると考えられている。本稿は手術医療の質を担保するため、チーム医療を通じて重要性や緊急性を扱う手術室を活性化する条件を考える。
手術は本質的な部分で機械化やIT化ができない。手術や麻酔時間を短縮するといっても限界がある。人口が減る中でも、手術医療を必要とする高齢者は増加し、診療報酬改定ごとに手術医療は増点される中で、現場は繁忙を極める。病院としても、手術室の活性化につながるヒントがあれば、何であれ飛び付きたいところだろう。
人材の確保は常に難問であり、人の育成は効率化が難しい。手術医療は専門性や複雑性が増すほど、人材育成に時間がかかる。外科医や麻酔科医だけでなく、手術室看護師も同様である。手術室は夜勤が少なく、安定して働ける環境にあるが、特定の人材が集まりやすく、固定化しやすい。また手術室看護師は特殊技能を備えているので、流動性が高い。人の育成が難しい理由は多い。
手術医学が取り扱う分野は、手術、麻酔、看護だけでなく、安全、感染、運営、管理、情報、褥瘡、洗浄滅菌、教育、質の評価、設備、器械、機器、薬剤、災害対策など幅広い。学術的だけでなく、学際的で横断的である。知識だけでなく、行動力や人間力といったセンスも求められる。つまり手術室の課題についての解決方法を考える前に、手術室内の仕組みを把握しなければ、解決すべき問題の本質すら見誤る可能性がある。
さらに手術医療の本質は不確実性である。絶対に成功する手術も麻酔もないが、「頑張りました」だけでは、患者・家族も納得しない。不確実性とは、どのような方法や理論を用いても管理し切れない難しさである。手術医療の質向上に必要な条件や手順はたくさんあるが、これで十分という努力はない。最善を重ねても成果とならない可能性もある。しかし病院管理者は、手術医療に対して成果だけでなく効率性も要求する。手術医療は急性期病院の根幹であり、病院経営の要諦なので、どこでも不確実性と手術室の活性化の両立に四苦八苦する。手術医療の質向上と効率化の二兎を求めるバランスは悩ましい。
連載では「手術室を活性化する条件」として、今回は目標共有の意義について、そして次回は業務標準化の大切さについて述べる。
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次回配信は1月31日12:00の予定です
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