【益田赤十字病院 院長 木谷光博】
前回は当院と圏域の病院が、お互いに独立した立場で信頼関係を基礎に「紳士協定」を結び、機能分担を進めていることをお伝えしました。今回は、へき地における医師確保と将来の経営について述べたいと思います。
5.地域医療連携協定後の今後の病院経営方針について-へき地と都会では対策が異なる
へき地では、高齢者数は横ばいでも、総人口が減少するため、高齢化率が急激に高まる一方で、都会では高齢者の絶対数が増え、高齢化率が緩やかに上昇していきます。高齢化への施策はおのずと異なってきます。
へき地ではこれ以上、高齢者を想定した増床は不要であり、医療・介護のハード面での投資は行うべきではないでしょう。人口推計を見れば、施設をつくっても、減価償却を終える前に患者や利用者の需要が落ち込み、病床が空いて赤字を広げる可能性が大です。今あるハードを上手に活用する視点が重要です。
一方、都会ではある程度の増床も必要と思われます。増床が難しい場合には、在宅医療の強化が求められるでしょう。医療・介護のニーズが高まり、一時はバブル状態となるかもしれませんが、過度の設備投資は危険で、2040年以降に高齢人口が急激に減少したら、破産する施設が続出するかもしれません。施設が破綻するのは勝手ですが、そこで働く医療従事者はどうなるのでしょう。経営者は従事者・入院患者の行く末を考える義務があります。また、国の財政が危機を迎えた場合、自由診療の議論が出てくる可能性も考えられますが、私は医療・介護を自由競争に任せてよいのか疑問に思います。へき地で直面しつつある問題は、都会にとっても対岸の火事ではありません。それぞれの首長・住民が真剣に20年先の構想を考えなければ、地域が崩壊します。
へき地では、ハードに投資する資金力が貧弱です。今すぐにでも機能分化を模索する必要があります。当圏域では今後20年を乗り切る鍵が機能分化です。
当圏域では、精神科単科病院を除く4病院で病床機能の調整を行いました。16年に改築し、屋上にヘリポートも備えた当院が7対1部分の高度急性期・急性期を主に担い、その他の病院は、地域包括ケア病床や回復期リハ病棟、療養病床などを担うことになりました。しかし、病床数の削減について具体的な調整はしていません。各病院の事情もあり、強制的な誘導は不可能です。特にドル箱である急性期病床のニーズは将来的には半分になりますが、対応は今後の課題です。ベッドの削減は、職員の削減を意味しますが、地域にとっては非常に重要な問題です。
4病院同士が話し合うことで、それぞれの病院機能に関しておおよその方向性が付きました。今後はソフトの面で、いかに効率的な環境を整えるかが重要です。一例として島根県が提供する電子カルテ上の情報共有システム「まめネット」で圏域患者の情報共有を進めていく予定です。
圏域の病院間と薬局、介護施設、訪問看護ステーションなどとも、できれば診療材料や薬剤の情報、患者情報を共有したいと考えています。情報共有は、材料費の削減に結び付き、急性期から在宅まで、スムーズな医療・介護の連携につながると考えます。
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