【関東労災病院 経営戦略室室長 卒後臨床研修管理室長 救急総合診療科部長 小西竜太】
前回、人員増と同一労働同一賃金制度の導入で、医師業務のタスクシフティングには病院経営を圧迫するファクターもあることを示した。
しかし、タスクシフティングは今後を乗り切るためのポイントになる対応策であることは変わらない。ただ、誰に渡すかは慎重に考える必要がある。
Badシナリオは、医師同士で業務をシフトさせることだ。医療供給力のバランスを全体で見た場合、例えば外科医が減る一方で、麻酔科医が増えていくような診療科間の医師偏在や、都会と地方間での医師偏在となると問題は好転しない。医療需要を埋め合わせるべく、一方の負担感や過重労働が増加して、全体的にはサービスの質や医療安全面の悪化は避けられない。
Betterシナリオは、医療産業内での業務シフトである。医師の業務を、特定行為の研修を受けた看護師や薬剤師などにシフトさせることで、医師の供給量のバランスを取る。Bestなのは、他産業からもこの世界に入ってもらい、需要が増えた部分の業務をシェアしてもらうことだ。テクノロジーによる業務効率化や、ITやアプリを利用した新しいカタチの医療サービスもあるかもしれない。さらに、そのためには国民の理解も必要である。コンビニ受診を減らし、病院の薬をOTCスイッチすることも、医療リスクをシェアすることになる。Bestと言ったが、このくらいまでタスクシフティングのすそ野を広げなければ、医療提供体制を維持できるだけの生産性や付加価値は上がらないだろう。
周辺産業も含め、業務を広くシフトさせるとコストは上がってしまう。ただ、説明責任、多方面からの監査などさまざまな目が入るため、安全やサービスの質が確保されるというポジティブな側面があることも忘れてはならない。
医師の働き方改革については、労働時間の上限を守れば、労働投入量が減り、全体的な医療サービス提供量が減ってしまう。そこで上記のようなタスクシフティングや、診療体制の変革、遠隔医療などICTの導入などの生産性改革を進める必要がある。
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