【関東労災病院 経営戦略室室長、卒後臨床研修管理室長、救急総合診療科部長 小西竜太】
医療は労働集約型産業であり、すべての医療サービスは医師のオーダーから発生するといっても過言ではない。つまり医師の「働き方改革」は、医療制度や診療報酬以上に、医療提供体制に大きな影響を与える「医療産業改革」になりうる。
医師の「働き方改革」が進められると、医師はどれくらい不足するのか。
「週40時間+時間外20時間(月80時間)」を労働時間の上限とした場合、病院勤務医の25%(約4万-5万人)※1が消失するほどのインパクトがある。
これだけの労働力が消失すれば、「医療供給体制の崩壊(特に地方やへき地)」「病院経営の維持が困難」「臨床研修や自己研さんにマイナス効果」は避けられないだろう。特にへき地で医師の診療時間が制限されたりすれば、地域の医療提供体制は崩壊すると考える。
ただ、法的制度スタートまでには、少なくともあと7年ある。無論、現在の労働環境の改善は待ったなしの状況であるが、2025年を迎えるころが本格稼働の時期だろう。
働き方改革は、医療の各制度と密接にリンクしている。地域包括ケアシステムや地域医療構想などの医療提供体制の整備、新専門医制度や医師偏在・需給問題も当然絡んでくる。現場の当事者としては、現時点での医療環境における働き方改善に想像力が限定されてしまい、同時並行で変化する将来像の中での働き方を想起することは難しく、長期的な視野での取り組みが欠かせないだろう。
※1 医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査、平成26年医師調査の概況からの推算
安倍政権は15年9月に成長戦略「新・三本の矢」を発表した。その軸は、(1)希望を生み出す強い経済(2)夢をつむぐ子育て支援(3)安心につながる社会保障―だ。今後の人口減少や高齢化に伴う経済成長の減退に備えようとする背景がある。一部の識者に、一人当たりのGDPが上昇するのであれば、経済成長がなくても問題ない、日本は成熟国家として文化度や幸福感を高めればよいとする主張もある。しかし、筆者は、子や孫の世代のためにも、経済成長を継続したままでバトンを渡すべきであり、医療分野が経済成長に寄与することが必要と考えている。連載では、経済成長の視点も交えつつ、医師の働き方について考えてみたい。
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次回配信は11月21日12:00の予定です
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