地域包括ケアシステムの構築が各地で進む中、患者の情報を医療機関同士で共有する重要さが増している。注目すべきはカルテの情報などをICT(情報通信技術)で共有する仕組みで、厚生労働省では今後、患者の治療履歴などを医療機関が共有する全国的な仕組みを稼働させる方針だ。そうなれば、患者の退院支援を担当する病院職員の仕事が大きく変わる可能性もある。ICTを使って県単位で情報を共有している福井の取り組みを取材した。【佐藤貴彦】
■地域包括ケアシステムで連携先が多様化
少子・高齢化が進むと、医療と介護のニーズを併せ持つ高齢者が患者の多くを占めるようになる。地域包括ケアシステムでは、そうした患者が住み慣れた地域で暮らし続けるのに必要なサービスを、その地域にある医療機関や介護サービス事業所が役割分担して提供する。
そこで関係者がしっかりと役割分担して連携すればサービスを効率良く提供できるが、患者・利用者の情報共有がおろそかになれば無駄やむらを生む恐れもある。退院支援を担当する病院職員には、そうした関係者との積極的な情報共有が求められるというわけだ。
そこで厚労省では、昨年春の診療報酬改定で「退院支援加算1」(最高1200点)を新設した。医療機関や介護サービス事業所など20カ所以上の職員と定期的に情報共有することなどが要件で、昨年5月診療分のデータで1000施設近くが算定していた。
■ICTで共有、20年度から「全国的に」
そんな中で、医療関係者らが患者情報をICTで共有する仕組みをつくり、自治体や地域医師会が運用する事例が増えてきた。患者の既往歴や処方内容、検査データなどを電子的に共有するもので、薬局や訪問看護ステーションが参加するケースもある。
厚労省も、そうした取り組みをさまざまな形で後押ししていて、昨年春の診療報酬改定では、患者の情報を電子的に共有する医療機関の評価として「検査・画像情報提供加算」(診療情報提供料(I)の加算、最高200点)、その情報を診療に生かした医療機関の評価として「電子的診療情報評価料」(30点)をそれぞれ新設している=図1=。
さらに同省では、全国的な「保健医療記録共有サービス」の2020年度からの本格稼働を目指しており、その実証事業の費用1億800万円を来年度予算の概算要求に盛り込んだ。患者の基本的な情報を全国の医療機関が共有できるようにして、初診などに役立てるのが狙い。実証事業では、共有する情報の選定や、運用面・技術面の課題の検討を予定している。
■医療も介護も情報共有、福井県の取り組み
患者の情報をICTで共有している先進的な地域では、その仕組みをどのように活用しているのだろうか。
福井県では、「ふくいメディカルネット」を14年4月に稼働させた。県内の主要な急性期病院に入院した患者のカルテ情報や画像情報を、連携先の医療機関の医師らが専用の端末でチェックして診断や治療に生かしている。
(残り1574字 / 全2783字)
この記事は有料会員限定です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
【関連記事】