【吉備国際大学 保健医療福祉学部 作業療法学科 准教授 京極真】
Q. 職場の同僚に「信念」が感じられません。 |
「信念がない」ということはありません。
「どんな状況と関心の下にいると、他人の意見に振り回されやすくなるのか」を理解し、その人が主体的に行動しやすい条件を整えるようにしましょう。
■「信念がない」は誤解
信念対立の基本構造は、「異なる意見の間で確執が生じること」と言えます。多職種連携の利点を阻害する信念対立には対策が求められるところであり、「信念対立解明アプローチ」はその哲学的実践論です。
しかし、信念対立に関するよくある誤解の一つに、信念とは「特に強い価値観」「自分の意見をしっかり持っていること」「神仏に対する信仰心」などを指す、というものがあります。確かに、辞書で信念を調べると「固く信じて疑わない心」とか、信仰・信心という意味があると解説されています1)。
しかし、信念対立解明アプローチでいう信念はそもそも哲学用語であり、趣が異なります。哲学において信念は、通常の辞書などで紹介される日常的な意味よりも、広く「世界観(or世界像)」という意味で使うからです2)。世界とは時空間の中で相互につながった事柄全体であり、世界観とは特定の立場から描かれた世界の姿です。
生きている人間であれば、誰しも必ず何らかの世界観=信念があります2)。強い価値観を持っている人も、あやふやな意見を持っている人も、何を考えているか分からない人も、他人の意見に振り回されている人も、生きている限りその人なりに世界を認識し、思考し、感情を持って行動しているからです。
信念対立解明アプローチでいう信念は、そうした営為の総体であり、誰にでもあるはずです。
■それでも「信念がない」と感じる場合はどうとらえるか
とはいえ、質問者が「あの人には信念がない」と感じてしまったことは事実です。そう感じたこと自体は否定できませんので、それを前提にした上で、どう考えたらよいでしょうか。
一見すると周囲から「信念がない」と思われるような人は、「他人の意見に従っておくとよい」という世界観の中で生きている人だと理解することができます。つまり、自分の意見を言うよりも、他者の意見に合わせることにアドバンテージがある、という信念にとりつかれているのです。信念対立解明アプローチで押し広げた信念の理路ならば、そうとらえることができます。
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次回配信は6月9日5:00を予定しています
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