2014年1月のダボス会議での安倍晋三首相の発言をきっかけに、鳴り物入りで始まった「地域医療連携推進法人制度」に早くも黄色信号が灯っている。当初、参加が有力視されていた法人が、次々と辞退しているというのだ。日本版の「非営利ホールディングカンパニー型法人」の創設を提唱してきたキヤノングローバル戦略研究所の松山幸弘研究主幹は、6つの問題点があると指摘する。一体、この制度のどこに問題があるのか―。松山氏に話を聞いた。【聞き手・敦賀陽平】
―非営利ホールディングカンパニー型法人の創設を主張したのはなぜか。
日本の医療提供体制の最大の問題は「過剰投資」にある。かつて補助金で設備投資を繰り返していた国公立病院が、依然として急性期医療で過剰投資を続けている。そして、その煽りを受ける形で、民間法人も過剰投資となり、全体が過剰投資に陥った結果、病床の再編が進まない。
私が非営利ホールディングカンパニー型法人の創設を提案したのは、国公立病院に過剰投資をやめさせる仕掛け作りだった。国公立病院の地域統合には政治が絡むので、トップダウンで強制的にやらないと動かない。地方議会では、できるだけ大きな病院の公共工事を請け負うことが目的化し、医療提供体制を良くするという発想で議論はできないからだ。
患者が急性期病院に行くのは、大きな病気やけがをした時だけだ。普段は開業医の先生に診てもらう。本来、病院を増やすという発想ではなく、開業医の先生が働きやすくなる仕組みをつくるべきだが、国は今回の制度を病床再編という誤った方向に誘導してしまい、おかしな法律ができた。私が知る限り、この制度を良いと言っている人は一人もいない。
■「非営利」のロジックが迷走している
―地域医療連携推進法人(以下、推進法人)の問題点はどこにあるのか。
まず、「地域連携」を進めると言っておきながら、厚生労働省が直轄する国立病院や労災病院、JCHO(地域医療機能推進機構)の病院が名乗りを上げていない。そして第二に、評議会の意見具申など、面倒な手続きが多過ぎる。グループ内でさまざまな施設を抱え、自前で地域包括ケアシステムをやれる「勝ち組」の経営者にとって、参加するメリットは皆無と言っていい。
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