【日本医業経営コンサルタント協会 東京都支部 中小病院研究会 外山和也】
いよいよ最終回となった今回はまず、最近の新聞記事から次の2つを紹介したい。
「2025年問題へ連携焦点 医療・介護報酬、18年度同時改定へ議論」 |
「医療と介護の効率的な連携で無駄を省け」 |
このように病院経営を取り巻く環境が厳しい時代にあって、中小病院が次世代の経営を担う「コア人材」をどう育てるかは究極の課題である。医療・介護は、今まで当然のことと考えられていたことが劇的に変化する「パラダイムシフト」の渦中にある。その時代に対応できる、これからの「コア人材」の育成は極めて重要だ。大きな病院であれば、厚い人材の層の中から「コア人材」を育てていけばいいが、中小病院ではそれは相当に難しい。
前回は「複線型人事制度」を導入した病院の事例を紹介した。「ライン」「マネジメント」(管理職)のコースを選択するか、「スタッフ」「スペシャリスト」を選択するか、その判断時期を専門職として一通りの業務を経験した40歳に設定したという制度だが、今回は、それとは「真逆の人事戦略」を進める病院を紹介する。
■「コア人材」を育てる
世界的な人材コンサルティングファームである、コーン・フェリー・ヘイグループ社長の高野研一氏が、昨年12月27日の日本経済新聞朝刊に「『追い越し車線』が経営人材育てる」というタイトルで、次のような文章を寄稿している。
「『うちの会社では、なぜ経営人材が育たないのか』。近年こんな相談を受けることが増えている。人材コンサルティングをしていて感じるのは、企業経営を担う人材が圧倒的に足りていないということだ。(中略)経営者を本気で育てたいのなら、ガチガチの年功的人事慣行を改めて『追い越し車線』をつくる必要がある」
今回のケースは、この記事を地で行くような人事戦略である。
「年功序列」という名の追い越し禁止の黄色線を塗り替えると同時に、事務系を中心に「こいつなら」という優秀な人物を採用・抜擢して、若いうちからハイウェイの「追い越し車線」を走らせる。言ってみれば、エリート養成だ。大病院のように「高度医療」「厚い人材」「賃金」「安定」(今後どうなるかは分からないが)といったPRポイントがなくても、将来の「コア人材」を目指す意欲にあふれた若者にとって、自院が魅力的に映るようにするにはどうしたらいいかを考え抜いた末の戦略である。
「コア人材」の養成を行っているこの病院では、そのうわさを聞きつけた他院からの要請で、他院スタッフの研修受け入れも行い、「コア人材」を目指す者同士、切磋琢磨して好ましい状況になっているようである。今後は、受け入れ側を逆にした“交換留学”も決まっており、地域で「コア人材」養成のアカデミーを設立することが最終目標なのだという。夢は大きい。
3月6日の「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」では、
「地域医療連携推進法人が推進されることで労務管理などの蓄積が進み、その結果を活用して医療勤務環境改善支援センターと有機的に連携していくことが重要」
「労務管理・人材マネジメントについては、余裕がある大病院については病院内にその機能を備え、中小病院などはセンターが支援する、という仕組みが重要」
というアイデアが出された。
この「人材マネジメント」が、どのレベルまでを意図しているのか、興味深い。「コア人材」の育成は、個々の病院が手掛けるべき重要課題だと思う半面、中小病院が単独でそれを行うことは難しいとも感じる。
筆者も前出の「コア人材」養成のアカデミーが究極の姿だと思う。
■成功する人事戦略に見る普遍性
「地域包括ケアシステム」は「ご当地システム」とも言われる。医療資源は地域によって異なり、それぞれの地域の実情に応じた多様な取り組みが重要とされる。中小病院の人事戦略もまた、その病院を取り巻く地域性、環境、病院の機能・特性などによって「千差万別」だと言えるが、その中には「普遍的な成功要素」もあると私は考える。
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