その調査は、厚労省老健事業「特別養護老人ホームの開設・運営状況に関する調査」。同調査の一環として行われたシンポジウムでは、昨年11月から12月にかけて、全国の特養1151カ所の特養を対象に実施された開設・稼働状況の実態と空床の要因をテーマとしたアンケート調査(有効回答数は550カ所)の結果として、以下のデータが示された。
(1)開設した特養が満床に要する期間は、平均して約6カ月
(2)調査対象となった特養の平均ベッド稼働率は約96%
(3)利用者の入院や退所などに伴う一時的な空床や、どうしても緊急で受け入れなければならない人への対応などのために空けてあるベッドを含め、空床がある施設は全施設の約25%。
このうち、(3)のデータがクローズアップされ、ニュースなどで取り上げられた結果が、冒頭のような状況を生んだと考えられる。つまり25%とは、「どんな理由であれ、調査の時点で、利用者がいないベッドが一つでもある特養」の割合である。「すぐに利用できる空きベッドがある特養」の割合でもなければ、「すべてのベッドのうち4分の1が空いている」ことを示した数字でもない。
■「特養のニーズは依然、高い」‐厚労省
その点は(2)で示された平均ベッド稼働率との整合性から考えても、明らかだ。そして先の厚労省の担当者の説明は、(2)の数字に従って行われたものだった。厚労省の関係者は、CBnewsの取材に対し、この稼働率が過去の「介護サービス施設・事業所調査」で示された特養の利用率からあまり変化していないことから、「全国的に見れば特養の空床は急増している状況にはなく、依然、そのニーズは高い」と指摘した。
■質向上のために開設時に空床を設ける例が多い
さらに、先に示した開設した特養が満床になるまでに半年必要とされている(1)のデータについては、開設前に計画通りの入所定員に満たなかった施設の約半数(48.2%)が「職員が順応しやすいよう、順次の開設としたため」ということを理由として挙げている。つまり、開設時に空床がある特養の半分ほどは、サービスの質を高め、職員が働きやすい環境を整えるため、あえて空きを作っているということだ。
こうしたデータを見れば、先の厚労省の担当者の指摘も、うなずける気もする。
■人材不足や入所者不足が空床の背景との声も
ただし、「特別養護老人ホームの開設・運営状況に関する調査」のデータを、さらに詳細に読むと、その説明だけでは納得しかねる数字もある。例えば、開設前に計画通りの入所定員に満たなかった施設の中には、「施設運営基準上の必要職員数が確保できなかったため」(7.6%)や「入所者がいない」(8.4%)などと答えた施設もあった。
このデータが正しいのであれば、入所者やスタッフを確保できなかったことによって空床が生じた施設も一定数、存在していたことになる。こうしたデータを基に、「特別養護老人ホームの開設・運営状況に関する調査」の結果が示されたシンポジウムでは、特養への入所が要介護3より重度の人に原則限定されたことや、深刻化する介護人材不足が、入所状況に変化をもたらし、一部の地域では、かなりの数の空床が生じ始めていると指摘する有識者もいた。
「特別養護老人ホームの開設・運営状況に関する調査」のデータは、取りまとめの途中段階で示したものだ。それだけに、「実態をより正確に把握するためには、さらに精査・分析する必要がある」(厚労省関係者)との指摘もある。
だが、そのデータの評価はさておいても、特養の現場に足を運び、経営者やスタッフの声に耳を傾ければ、スタッフ不足や介護保険制度改正により、「埋めたくても埋められない空床」が生じているとの声が聞かれる。
まとめると、特養の4分の1に埋めたくても埋められない空床があるような情報は、報道の一部のみが伝わった結果の誤解と考えてよい。そして、27日の発表でも分かるように、要介護3以上だけでも30万人近い人が特養への入所を希望しているという調査結果もあるとおり、特養へのニーズは、まだまだ高い。少なくとも、特養がいつでも入れるくらいに空いてきた、とは決して言えない。
ただ、人材不足や介護保険制度改正が特養の運営に影を落としているのも、また事実だ。本当に「埋めたくても埋められない空床」は、全国の特養にどのくらい生じているのか-。今後の制度改正や報酬改定を考える上で、一刻も早く調査すべきテーマといえる。
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