【社会福祉法人ワゲン福祉会総合相模更生病院薬剤部部長 稲葉健二郎】
■はじめに
総合相模更生病院(神奈川県相模原市、225床)は、外科、内科、産婦人科、整形外科などを中心に急性期医療を提供すると共に、地域の“かかりつけ”病院としての役割も担っている。退院後も継続して受診する高齢の患者も多く、法人内の居宅介護支援事業所、訪問看護ステーション、特別養護老人ホーム等で対応することもある。このような環境の下、当院では2014年5月に44床を地域包括ケア病棟に転換した。
地域包括ケア病棟の制度開始から3年が経とうとしているが、必要とされる薬剤業務について不明確な点も多い。今回、地域包括ケア病棟における薬剤師業務に必要な他職種間情報連携と相模原地域包括ケア研究会の活動内容を紹介する。
当院では、地域包括ケア病棟に薬剤師1人が常駐し、一般急性期病棟と同様に病棟薬剤業務や薬剤管理指導を行っている。常駐は「退院後の在宅での薬物治療の質向上への貢献」を主な目的としている=図=。 図 地域包括ケア病棟担当薬剤師の目的と役割 ■必要となる情報連携
地域包括ケアシステムの構築には、医療・介護の職種の連携が不可欠だろう。連携によって医療・介護の質向上と各職種の負担を軽減を図るためには、各職種の役割を明確化し、それぞれの職種間での情報連携を効率化することが最重要ではないだろうか。
今回は、地域包括ケア病棟の担当薬剤師が、実務において有効であった情報連携について解説する。 (1)入院時
地域包括ケア病棟では、入院時に全患者に対し、自宅環境や服薬管理状況、退院予定先の調査等を実施している。これらの情報から、退院後の患者を取り巻く環境を推察し、在宅で予想される薬物治療に関する問題点を抽出し、解決につなげることができる。
入院時に得られた情報として有用であったものを示す=表1=。ケアマネジャーからは、現在の残薬および薬剤の保管状況などの自宅環境や薬剤投与に対する家族の支援状況に関する情報が有用であった。薬局のかかりつけ薬剤師からの情報として、残薬調整などの服薬に関する問題点、他院から処方されている薬剤の使用目的、これまでの副作用情報が役立った。これらの情報により、退院後に使用可能な薬剤の種類や量が想定でき、医師と協議することで無駄のない処方設計が可能となった。また、訪問看護師からはバイタルサインなど、在宅での患者状態や食事の準備や内容などの食生活情報が得られ、服薬支援に生かすことができた。
これらの情報は現時点で、お薬手帳や電話連絡等で得ているが、より効率的な入手手段を確立していく必要がある。 表1 入院時に有用であった情報 (2)入院中
入院中は薬剤管理指導による患者・家族教育を行い、服薬コンプライアンスの向上と薬剤の安全な使用を目指している。また、患者状態や自宅環境に適した処方提案を行いながら、多剤併用の改善と用法の簡素化による副作用の防止と患者家族の負担軽減に取り組んでいる。取り組みを進める上で、各職種がどのような介入をしているのか、内容の共有は欠かせない。そこで当院では多職種情報共有シートを電子カルテ上に設置し、介入情報を共有している=表2=。 表2 入院中の患者別他職種情報共有シート(クリックで拡大) (3)退院時
退院時には、退院前カンファレンス等による在宅スタッフとの連携を通じ、在宅でのより良い薬物治療を行うために、薬物治療環境の適正化を進めている。また、入院中に変更となった薬剤や用法・用量、入院中の体調変化、退院後の注意事項等を、退院後に患者にかかわる職種に伝えている。患者家族、退院先の施設職員のみならず、ケアマネジャーやかかりつけ薬剤師等に情報を提供することで、シームレスな医療提供を目指している。
退院時にどのような情報が欲しいのかを各職種からヒアリングした=表3=。ケアマネジャーは、「介護職が知っておくべき薬剤情報」、つまり処方された薬剤の使用に際しての基本的な注意事項に関心があった。かかりつけ薬剤師などは、在宅においても入院中と同様の薬物治療を継続するために「解決していない問題点」「入院中の薬剤の変更点と理由」「調剤上の工夫」「薬剤管理方法」「入院中の薬剤に関する医師指示」等の情報がほしいとのことだった。訪問看護師からは、使用薬剤の情報や薬剤による副作用の重篤化を防止するための副作用の初期症状を知っておきたいという声があった。 表3 退院時に提供すべき情報 ■地域連携への取り組み
地域における他職種連携の場として、当院の薬剤部が主催し、2014年に相模原地域包括ケア研究会を立ち上げ、活動している。本研究会は当初、「相模原地域薬剤師合同研究会」として発足し、薬薬連携の推進が主な目的だった。しかし、薬剤師のみならず、医療・介護の多職種連携の重要性が増す中、16年には世話人に看護師、ケアマネジャーを加え、「相模原地域包括ケア研究会」に改称した。
研究会の目的は、冒頭にも挙げたように、地域包括ケアにおける各職種の役割の明確化と現状での問題点の抽出、解決方法の検討を行うことで医療・介護の質向上と各職種の負担軽減を目指すことである。
世話人には、病院薬剤師(2施設)、保険薬剤師(4施設)、看護師(1施設)、ケアマネジャー(1施設)を置き、在宅での薬物治療を中心に情報交換や講演会、シンポジウム、グループワークなどをこれまで7回実施している。毎回30人ほどが参加しており、最近では医師、看護師、ケアマネジャーなど、さまざまな職種が参加している。研究会では現在、「患者のために必要な職種間情報連携の明確化」、「効率的な多職種との連携体制の構築」、「服薬コンプライアンスの低下が再入院等に与える影響の明確化」をテーマにしているが、今後の業務連携に対する問題点の明確化と解決策の提案等を行っていきたいと考えている。 相模原地域包括ケア研究会の概要 ■まとめ
今回は、医療・介護の質向上と各職種の負担を軽減に必要な日常業務における情報連携と地域における他職種連携の場としての相模原地域包括ケア研究会を紹介した。地域包括ケア病棟では、地域と病院とでシームレスな医療を実現することが課題となっており、担当薬剤師が退院後の在宅での薬物治療の質向上に貢献することは今後より大きな意味を持つだろう。そのためには、病院スタッフのみならず、介護職を含めた在宅スタッフとの薬物治療に関する情報連携が強く求められる。臨床業務や研究会等での多職種連携をさらに強化していきたいと考えている。
在宅復帰支援は入院時がスタートラインであり、退院後の在宅医療を見据えて業務に当たることが重要と考えている。そのようなところから地域包括ケア病棟における薬剤師の役割の本質が見えてくるのではないだろうか。 稲葉健二郎(いなば・けんじろう)
1995年東京薬科大学薬学部製薬学科卒業、97年北海道大学大学院薬学研究科薬学専攻修士課程修了。2012年社会福祉法人相模更生会総合相模更生病院薬剤部部長、13年医療安全管理者兼務、16年経営管理本部人事企画室副室長兼務。
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