【大阪市立大学大学院経営学研究科 川村尚也】
アクションリサーチは、「良い理論ほど実践的なものはない」という言葉で知られる心理学者レヴィン(K. Lewin)が、「社会システムを理解する最良の方法は、それを変えてみることである」との考えから1940年代に提唱した研究アプローチである。
最近では、パーカー(I. Parker)は「質的研究の方法を総動員して、社会変革というテーマを探求する」、「研究活動を未来構想的な政治的実践に変革する活動」※1と説明し、リーズン(P. Reason)とブラッドベリ(H. Bradbury)は「価値あるヒューマニスティックな目標の達成に役立つ実用知識を開発する、参加的な世界観に根ざした民主的プロセス」※2と定義している。
※1 「ラディカル質的心理学」2008年、173-174頁
※2 The SAGE Handbook of Action Research, 2nd ed., 2008
大阪市立大学では、2009年度から経営学研究科前期博士(修士)課程で「医療・福祉イノベーション経営」をテーマとする夜間社会人大学院プログラムを開講し、医療・福祉組織の管理職(医師、看護管理者、コメディカル管理職、医療機関事務長、社会福祉施設・法人管理職等)が毎年約12人、8年間で延べ100人近くが受講している。
ここでは研究方法論として、アクションリサーチの一種である「自組織アクションリサーチ」の考え方を採用している。受講生は在学中の2年間に、勤務先組織(自組織)で自ら実行するイノベーティブ(革新的)な実践・組織変革行動計画(アクションプラン)を、「研究計画」として論文にとりまとめ、修了後に実際にアクションリサーチに取り組む。
受講生はまず、職員の疲弊・離職や財務業績の悪化など、自組織経営のさまざまな問題や現象を教室に持ち寄り、それらを自組織の発展経緯と事業環境・経営・組織・財務の現状、日本の医療・福祉の構造的特性等の視点から多面的・総合的に分析して、今後自組織が取り組むべき複数の経営課題を明らかにする。
次にその中で、今後3-5年の間に、受講生自身がリーダーシップを発揮して取り組んでいく課題を一つとりあげ、その達成に貢献するオリジナルでイノベーティブな現場実践案と、それを可能にする組織変革案を「研究仮説」として立案する。さらにその実践・組織変革案を、教員・同級生と共同で行う自組織の実地調査や、類似する先進的実践・組織変革事例との比較分析を通じて、受講生自身が実行可能なアクションプラン(「実践・組織変革の研究行動計画」)へと磨き上げる。最後にそれを修了論文の中で、実践・組織変革の研究に協力してもらう上司・同僚・部下、自組織の他部門、患者・利用者・家族、連携する他施設・法人、行政機関、取引先業者など、自組織内外のステークホルダーに分かりやすいかたちで説明していく。
修了後はこの研究計画をツールとして、上記のステークホルダーと協力しながら、実際に新たな現場実践を創始し自組織を変革するアクションリサーチに取り組む。数年後には、関連学会や本プログラム受講・修了者が参加する定例研究会で、新たな現場実践と組織変革が自組織で実現・定着・発展したかどうか、アクションリサーチの「研究仮説」が現実の実務での「リアリティ・テスト」に耐え、新たな「現場実践の理論」として十分「検証」されたかどうかを報告する。
次回配信は1月31日5:00を予定しています
(残り1965字 / 全3405字)
この記事は有料会員限定です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
【関連記事】
【関連キーワード】