次の介護保険制度改正に向けた議論が佳境を迎えている。議論の場となっている社会保障審議会介護保険部会では、今月に入り、年内の取りまとめを見据えた提案が厚生労働省側から相次いだ。中でも注目すべきは、軽度者を対象とした訪問介護の生活援助と、利用者がサービスを使う際に支払う自己負担分の割合の改正の行方だ。【ただ正芳】
昨年12月に取りまとめられた経済財政諮問会議の「経済・財政再生アクション・プログラム」には、利用者負担や高額介護サービス費などについて、今年末までにさらなる見直しを検討し、結論を得るべきとする内容が盛り込まれた。
また、軽度者に対する生活支援サービスや福祉用具貸与については、給付の見直しや地域支援事業の移行、負担のあり方などを検討し、やはり今年末までに結論を得て、必要な措置を講じるべきとしている。いずれの場合でも、法改正を要するものについては、17年度通常国会への法案提出も必要な措置に含まれるとした。
こうした提言とこれまでの介護保険部会での議論を踏まえ、厚労省は今月の同部会に対し、「論点」として今後の制度改正の方向性を提案した。
主な内容は次の通り。
【生活援助】
・生活援助の地域支援事業への移行は、既に決定している介護予防訪問介護などの移行を進め、その検証を行った上で検討すべきではないか。
・軽度者の訪問介護における生活援助などの給付について、自立支援や重度化防止、介護保険制度の持続可能性の観点から、どのような方策が考えられるか。
・次回介護報酬改定で、訪問介護における生活援助の軽度者について、要介護度に関らず、生活援助を中心にサービス提供を行う場合の人員基準の見直しなどを行うことも考えられるか。
・訪問介護の生活援助などの負担のあり方について、要支援・要介護度について違いを設けるべきか。
【利用者負担】
・それぞれの利用者の支払い能力に応じた負担を求めることの是非。
・医療保険における患者負担割合を踏まえ、負担の在り方を検討する。
・軽度者の利用者負担の引き上げの是非。
・高額介護サービス費のうち、世帯内の誰かが市区町村民税を課税されている「一般区分」の基準額を、3万7200円から4万4400円に引き上げることの是非。
■生活支援の地域支援事業移行、事実上見送り?
注目すべきは、軽度者を対象とした訪問介護などの生活援助の総合事業への移行について、「既に決定している介護予防訪問介護などの移行を進め、その検証を行った上で検討すべき」という、やや否定的な論点が示された点だ。
介護予防訪問介護や介護予防通所介護の地域支援事業への移行について、いまから検証作業をした上で、その内容を議論するとなると相当の時間がかかる。年内に予定されている同部会の取りまとめや、17年度の通常国会に提出される法案に、その内容を反映させるのは極めて難しい。
それだけに厚労省のこの論点提示は、軽度者を対象とした訪問介護などの生活援助の地域支援事業化を事実上見送るものと捉えることができる。実際、介護保険部会の多くの委員は、地域支援事業化の見送りと受け止め、高く評価した。
しかし、厚労省が示したこの論点は、むしろ実質的な地域支援事業化と報酬削減の布石とする声も上がっている。
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