医療経済研究機構は、30年分の都道府県別データで一人当たり医療費の増加要因を分析し、医師数の影響が最も大きいといった研究結果を公表した。その調査研究者で、中央社会保険医療協議会(中医協)委員の印南一路・慶大総合政策学部教授は、医学部定員の暫定的な増加によって今後、医療費の伸びが加速すると予測。医療保険財政のパンクを防ぐために、保険医の定員制限を地域ごとに設けつつ、医師の養成数を縮小させるほか、公的医療保険の給付範囲を見直す必要があると指摘する。【佐藤貴彦】
「政策を考えるとき、大事なのは『どこが問題なのか』と『問題が生じるのはなぜか』の2点ですが、医療費の適正化をめぐっては『なぜか』が分からない状態でした」―。印南氏はそう指摘し、医療経済研究機構の研究が、その問いに答えを出すものだと説明する。
医療費の増加要因はこれまでに、さまざまな手法で研究されてきた。しかし、その結果は、例えば病床数が増えることで医療費が伸びる影響を総合的に表すもので、医師数の増加に伴って病床数が増えて生じる医療費の伸びなどが包含されていたという。
同機構の研究は、1983年から2012年まで30年分の国民健康保険医療費や医師数、病床数、高齢化率などの都道府県別データを用い、医療費の増加要因を調べたもの。病床数の増加が単独で医療費の伸びに与える影響などを、地域の個別性を踏まえて分析することができたという。
それによると、単独の効果で、医療費を伸ばす影響力が最も強いのは医師数で、人口当たりの医師数が10%増えると、医療費が9.4%増えることが明らかになった。医師数以外が10%増えた場合の医療費の伸び率は、「一人当たり所得」が6.5%、「人口当たり病床数」が1.2%、「高齢化率」が1.0%などだった。
印南氏は、影響力が最も強い医師数でも、10%増えた場合に医療費を伸ばす効果が10%未満にとどまることから、医療費の伸びにはさまざまな原因があり、「これだけに対処すれば医療費を適正化できるという『魔法のつえ』がないことが分かりました」と解説する。一方で、医師数が最大の要因だと分かった時のことを「困惑しました」と振り返る。
■偏在対策と医学部定員削減をセットで
印南氏が困惑した理由は2つある。一つは、08年度から、医学部定員の暫定的な増加が認められてきたことだ。
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