【一般財団法人とうほう地域総合研究所 研究員 和田賢一】
Ⅰ.はじめに
本稿では、医療をサービス業ととらえ、サービス・マーケティングの見地から、高齢化社会における医療サービスの品質を高める医療経営のあり方について考察する。医療サービスの本質サービスと表層サービス※1のそれぞれで、医師から見て患者が求めると思われる品質の高さと実際に患者が求める品質の高さにおける認識の違いについて検証する。本稿の研究方法は、福島市民と福島市の医師に対するアンケート調査により収集したデータ分析を基本としている。病院と一般診療所の選択理由などについて、重視度スコアを示しながら、年代ごとの認識の差についても明らかにしようと考えた。
Ⅱ.分析結果
1.医療機関の選択理由
(1)医師に関する項目
病院および一般診療所の医師に関する「医師の診断や処置の適切さ」「医師の説明のわかりやすさ」「医師の言葉遣い・態度」の3項目について、市民の重視度と医師が考える市民の重視度を有意差検定により比較した=表1=。
表1 医療機関の選択理由(医師に関する項目)における検定結果 (単位:点)
注:重視度平均スコアは、「特に重視する」が100点、「やや重視する」が75点、「どちらともいえない」が50点、「あまり重視しない」が25点、「まったく重視しない」が0点としてスコアリングした合計点を件数で除した。母平均の差の検定は福島市民と医師の検定であり、分散分析は年齢別にみた福島市民の検定である。母平均の差の検定における棄却点は有意水準5%で1.96、分散分析における棄却点は有意水準5%で3.02。有意差判定は「○」が有意差あり、「×」が有意差なしを表す(以下同様)。
まず、市民合計と医師を比較すると、病院および一般診療所の「医師の診断や処置の適切さ」、一般診療所の「医師の言葉遣い・態度」で有意な差が認められた。
病院および一般診療所の「医師の診断や処置の適切さ」、一般診療所の「医師の言葉遣い・態度」について、医師が考えるほど、市民は重視しておらず、両者の認識に有意な差が認められる。
次に、市民(年代別)と、病院および一般診療所の医師の意識を比較すると、病院では、「30-50歳代」の「医師の診断や処置の適切さ」と「60歳代以上」の「医師の説明のわかりやすさ」において、一般診療所では、「30-50歳代」の「医師の診断や処置の適切さ」「医師の説明のわかりやすさ」「医師の言葉遣い・態度」、「10-20歳代」の「医師の言葉遣い・態度」においてそれぞれ有意差がみられた。
こうしたことから、病院では、「30-50歳代」の市民は、医師が考えるほど「医師の診断や処置の適切さ」を重視しておらず、「60歳代以上」の市民は、医師が考える以上に「医師の説明のわかりやすさ」を重視しているものとみられる。一方、一般診療所では、「30-50歳代」の「医師の診断や処置の適切さ」「医師の説明のわかりやすさ」「医師の言葉遣い・態度」、「10-20歳代」の「医師の言葉遣い・態度」については、医師が考えるほど市民は重視していないものと推察される。
また、「医師の説明のわかりやすさ」については、市民の年代間で実施した分散分析では有意差が認められたものの、改めて年代間3通りの組み合わせによるテューキー・クレーマー法※2 を実施したところ、有意な差が確認されなかった=表1、2=。この結果から、病院の医師に関する項目では、市民が求めるサービス水準に年代間の有意な格差は認められないものと考える。
※2 本稿では、福島市民の年代間で標本数が異なることから、テューキー・クレーマー法による多重比較により、各年代間の有意差検定を行った。なお、統計量は、(ある年代の重視度平均スコアー-比較する年代の重視度平均スコア)÷√(すべての年代の分散の平均値×(1÷ある年代の標本数+1÷比較する年代の標本数))により求めた。
表2 年代別にみた病院の選択理由(医師に関する項目)における検定結果
次回配信は10月26日5:00を予定しています
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