【熊本市立熊本市民病院 医事課施設基準室 飯塚正美】
災害時を想定して当院が日ごろから行ってきた「災害医療福祉訓練」は、もちろん「災害拠点病院として患者を受け入れる訓練」である。従って、救急搬入を中心にスケジュールや体制が組まれている。4月14日の「前震」発生後、当院ではすぐに災害診療モードに切り替え、317人の患者を受け入れるなど、その機能を発揮した。
しかし、16日未明に起きた「本震」で、当院は建物・設備の損傷のために救急患者の受け入れができなくなった。
■「災害時の診療記録」を守る
災害時においても、専門職として必要最低限の活動はしておかなければならない。私たち診療情報管理士は、カルテだけでなく、患者にかかわるあらゆる診療記録を守るのが仕事だ。災害時には自分の身の安全の確保を最優先としつつ、紙カルテの紛失や水濡れに注意したり、災害診療の記録がきちんと残されるように配慮したりする必要がある。
物理的保全に関しては、紙カルテはすべて院外の貸倉庫に預けており、まず大きな問題はないだろうということで事後確認とした。院内に残されたスキャン原本とわずかな貸出カルテは、北館7階にある診療録管理室に集められていたが、ここは水漏れが発生していないことを確認。また、電子カルテのサーバーも、情報システム室によって本震後も被害がないことが確認されていたので無事ということが分かっていた。
前震の後、トリアージセンターを開設した時には、全職員が病院で作成している「災害時における医療活動マニュアル」に沿って行動していた。このマニュアルでは、被災患者を受け入れた場合の診療記録の残し方について網羅しており、診療情報管理士は記録の物理的保全だけを気にしていればよかった。しかし、自院が被災した場合は、患者の安全措置と救護を最優先とするので、マニュアルは避難することしか言及していない。つまり、本震後は誰も「診療記録を残そう」とは思わず、「誰が」「何の」記録をしているのか自体、把握し切れなくなるという状況になった。
本震後の記録でどうしても残さなければならない情報は、「患者の転院先」と「転院までに行った処置や投薬」であった。これらの情報を事後入力でもいいから電子カルテに残すため、「誰が情報を取りまとめているか」を常に意識しながら避難を続けた。
また、避難の最中、「職員の中にカメラを構える者がいない」ということに気付いた。
マニュアルには、記録を残す担当者が明記されていなかったのだ。避難の様子をとらえた写真や動画は、後の反省材料や行動の検証記録になったはずだが、「非常時に写真を撮るなんて…」という後ろめたさもあり、それが避難時の状況を一枚も写真に残せていないという失態につながった。当時の現場は混乱していたが、携帯電話を持って行動している職員もいたので、もし「記録係」という腕章さえあれば躊躇することなく撮影できただろうと後悔した。
■「患者ゼロ」の病院で-
16日午後、すべての入院患者の転院・退院が終わり、当院は「患者ゼロ」の病院になった。
次回配信は7月14日5:00を予定しています
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