【南砺市民病院前院長、南砺市政策参与・地域包括医療ケア部地域包括ケア課顧問 社会福祉法人福寿会副理事長 南眞司】
富山県の南西部に位置する南砺市は、2004年11月に4町4村が合併し誕生した。琵琶湖に匹敵する広大な面積(668.64k㎡)のうち、約8割を森林が占める中山間地域である。合併後の約11年間で、人口は約5.9万人から5.3万人に減少した一方で、高齢化率は約27.6%から35.3%になり、過疎化、超高齢化が進行した。
合併時には3つの市立病院で、地域包括ケアの構築に取り組んでいたが、医師不足や赤字経営など課題も多かった。特に医療崩壊の危機に見舞われたのが07年ごろだった。南砺市民病院では数年前に17人だった医師が15人に減った。別の病院では、最大18人いた医師が5人まで減少し、もう一つの病院は医師が足りず診療所とされた。
医師確保と24時間体制の在宅医療を進める
南砺市では07年度より、研修医の養成に取り組んだ。救急医療の維持と超高齢社会に対応した診療体制の構築のため、総合診療医の確保は喫緊の課題だった。総合診療などを目指す若手医師にとって、当院や南砺市は良いフィールドだが、教育・研修の指導者が不足していた。そこで、09年度に富山大学総合診療部と協力し、初めてマッチングした2人の初期研修医の養成を進めた。
総合診療医を目指す初期・後期研修医の育成を継続したことで、今年4月には、南砺市民病院の医師数は25人まで増加し、常時救急医療が可能となった。在宅医療でも、訪問看護が訪問診療と協力しながら、24時間対応できる体制を構築し、脳卒中の後遺症が重度でも自宅退院が可能となり、自宅での看取りも増加した。
地域住民との連携・協働のための「マイスター養成講座」
医療崩壊が危惧された07年12月には、富山大学総合診療部と南砺市が連携し、医療専門職や住民への啓発活動「在宅医療推進セミナー」を開始した。婦人会員など、住民の危機意識は高まったが、具体的な活動に結び付かなかった。
このため、09年10月から「南砺市地域医療再生マイスター養成講座」をスタート。講座は毎回医療・福祉職や婦人会など、約50人が参加し、1回2時間半、隔週で5回開催した。ここでは、医師不足、在宅医療・介護、認知症など、地域医療の状況を確認し、“自分事”として、参加者自身が解決策を立案する。当院からも医師、看護師やコ・メディカルなどが参加し、他の職種や行政、地区住民との意見交換から、医療、行政や地域の状況をお互いに知る機会になった。15年度までの7年間で310人のマイスターが養成された。
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次回配信は5月31日を予定しています
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