【医療法人パリアン クリニック川越 院長 川越厚】
人の生死を考える場合、興味深いことがある。それは「死の前後」という言葉で表される、「死の前」と「死の後」という概念である。二つの間にある出来事が「死」であり、この時を境にして、「生者」と「死者」が区別される。生者の体は「生きた体」、つまり「生体」であり、死者の体はもはや生きた存在でない「死体」となる。死体は生が宿っていないので、“もの”であるという考えがここから生まれてくる。
「生者のところに死者が現れる」という話は、われわれ日本人には感覚的に受け入れやすいし、自然な形の生と死に日々遭遇する在宅ホスピス医にとっても、こうしたファジーな死生観には抵抗感が少ないのではないか。
在宅ホスピス医としてかかわった患者の家族が語ってくれた、二つの“不思議な出来事”を紹介したいと思う。
■「夫の口から、白い霧のようなものが」
肺がんで死亡した、61歳の男性の死の直前に起きた話。12歳年上の内縁の妻が、呼吸停止4時間後、私が死亡診断に伺った際に語ってくれた。“不思議な出来事”が起こったのは、呼吸停止1時間前の午前3時半ごろで、その場に居合わせたのは内縁の妻のみ。その時の彼女の意識は完全に覚醒していた。私はその話を記録し、後日彼女に確認してもらった。以下は、彼女とのやりとりの記録である。
「主人の呼吸が荒くなり、いよいよ最期かと思ったので、私は夜を徹して看病するつもりで、そばに付いていました。その時、突然、主人の口の辺りから白い霧のような細長いものが吐き出されるように出てきました」
「ええ?」
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