【大滝恭弘(帝京大学医療共通教育センター准教授、医師、弁護士)】
この寄稿の第1回では、ウログラフィンの脊髄腔内誤投与事件を取り上げ、同種の医療事故が昔から繰り返されていること、医療事故が医療者個人の資質というよりは、診療システムに起因することが多いことについて指摘した。
第2回、第3回では、近年の医療の進歩と専門化に伴って強く推奨され、医療事故の防止にも効果があるとして注目されているチーム医療の問題を取り扱った。特に、第2回では、推奨されるチーム医療と現行法制度との間の乖離の存在を、第3回では、チーム医療下における医師の責任を強調した。
チーム医療という診療システムの下、各医療職の専門性を最大限に活用して診療に当たることは患者にとっても望ましいが、今後、さらに医療の専門化が進むことが予測されることから、医師に限らず、一人の医療従事者がカバーできる範囲は限定的とならざるを得ない。
チーム医療で医師には、チームのリーダーとしての役割が期待され、その法的な表れとして、他の医療職に対する指導・監督義務が課されている。そのため、他の医療職による過失行為によって医療過誤が発生した場合、医師が指導・監督義務違反を問われる場合がある。
医師が患者の診療において、最終的な責任を負うべきではある。しかし、他の医療職の行為を信頼することが許されず、医師が司法から過度な法的責任を追及されるならば、チーム医療は成立しない。
医師が他の医療従事者の医療行為を、いかなる場合にどこまで信頼してよいかは、問題となる医療行為の危険性、医療過誤発生の可能性、医療過誤回避の可能性等、具体的場面で変化することは当然であるが、その基準は判例からはっきりと読み取ることはできない。
この「他の医療職をいかなる場合に、どこまで信頼してよいか」というチーム医療下の診療システムにおける根本的な問題について、前回同様、チーム医療の核となる医師と看護師との関係を通して考察してみたい。
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