【合同会社医療介護連携研究所 久保美穂子】
「おうちに帰りたい!」-。在宅医療がかかわらないと帰ることができない入院患者さんが、たった一言、この「おうちに帰りたい」という言葉を発するのはとても勇気が要ることではないでしょうか。自分自身の病状に対する不安や家族への介護負担などを考えると、なかなか言える言葉ではないと容易に想像することができます。しかし、いろいろなことはひとまず置いといて、まずは「その人自身がどうしたいのか」という希望を言うことができる環境が整っていることが大切だと感じています。
「おうちに帰りたい!」その想いを実現させるためには、主治医をはじめ病院チームから退院時カンファレンスで、患者さんの目の前で在宅のチームにバトンを手渡すまでの経過も大切なプロセスだと考えています。
わたしが病棟にいたころに感じたのは、「その人の人生の終えん、最期の幕引きが、大切な本人抜きで決められてしまっている」という現実が少なからずあるということでした。わたしは今、在宅医療の現場に立っています。そして、改めて病棟で働いていたころを振り返ってみて、患者さんが「病気と障害に向き合って、どのように生きて、最期を迎えたいのか」ということを家族も含めて患者さんと一緒に考え、寄り添うことが十分にできていたのだろうかと考えます。
そして今、わたしはいろいろなところで「医療従事者が“おうちに帰るための障害”になっている」と声を上げるようにしています。医療従事者自身が、この状態で帰られるわけがないと決め付けている場合も多く、その場合は「おうちに帰る」という選択肢すら患者さんには示されていません。自分と家族の歴史があるおうちに…、家族との暮らしという日常の中に自分が居て、起床、消灯、検温、食事の時間などと管理されることのない自由な時間と心から安らげる自分の場所に…、そこに帰ることもできるという選択肢も必ず医療従事者は提示する必要があり、医療従事者から提示されて初めて「帰りたい」と言えることができるのではないでしょうか。
「帰りたい」と言ってもさまざまな不安があり、「帰る」ためには十分な準備が必要になります。その準備の中でとても大切なものの1つが「退院時カンファレンス」だと言えます。退院時カンファレンスは「治す医療」から「寄り添う医療」へ患者さんの目の前でバトンを手渡す大切な場だと感じています =図1= 。
次回配信は11月11日5:00を予定しています
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