【鈴木雄介(鈴木・村岡法律事務所 弁護士、医師)】
医療訴訟において、法律が保護の対象としているのは患者の生命・身体だけではありません。適切な医療がなされていたのであれば患者が生存していた相当程度の可能性を侵害した場合や、患者が期待するレベルの適切な医療を提供できなかった場合にも、損害賠償責任を負う事態は生じ得ます。
今回は、患者の生命・身体以外の利益に対する侵害が問題とされた判例を中心に、ポイントを見ていきたいと思います。
■事案の概要(最高裁判決平成12年9月22日)
患者A(56歳)は、自宅で狭心症発作を起こし、B病院の夜間救急外来を受診、医師Cの診察を受けました。受診時、患者Aの狭心症は心筋梗塞に移行しており、相当に増悪した状態でした。
しかし医師Cは、患者Aに対し、鎮痛剤の筋肉注射および急性膵炎に対する薬の点滴を実施したものの、心筋梗塞に対する治療を行わなかったため、この点滴中に患者Aは致死的不整脈を生じ、容体の急変を経て死亡に至りました。医師Cは、胸部疾患の可能性のある患者Aに対する初期治療を行う基本的義務を果たしていなかったのです。そこで、患者Aの遺族であるXらが損害賠償請求をしました。
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