【米津・逢坂法律事務所 弁護士 逢坂 哲也】
第2回以降は、応召義務に関する裁判事例をご紹介します。
前回も指摘した通り、応召義務について、より理解を深め、実践的なセンスを養うためには、応召義務の基本を押さえた上で、具体的な裁判事例にできる限り当たり、裁判所がどのように事案を分析し、判断をしたのかを勉強することが大変有益と思います。
今回紹介する裁判事件は、救急患者の診療拒否に関するもので、診療拒否により治療が遅れ患者が死亡したとして、患者の遺族が病院を相手に、損害賠償請求訴訟を提起した事件です(千葉地裁昭和56年(ワ)第731号損害賠償請求事件)。
救急車が搬送中に、K病院から個人病院にベッドが満床なので入院させられない旨の連絡が入り、消防署司令室からの収容確認にも同様の回答がなされ、さらに、救急車がK病院に午前10時3分に到着後に再度消防署司令室からK病院に入院もしくは診療の要請がなされたが、K病院の医師は「緊急の入院を要する患者であれば初めから設備のある病院に搬送して欲しい」と回答し、断った。
そこで、消防署司令室では、管内の病院等について収容の依頼をする手配をしたが、なかなか見つからず、再度署長自ら電話して再度入院を要請したが再度断られたため、管外の搬送もやむを得ないと判断し、K病院に対し、小児が1、2時間の搬送に耐えうるかどうかを診断して欲しい旨を依頼した。K病院のM医師が救急車内で午前11時5分から2分間診察し、胸部聴診の結果、肺炎にかかっているのではないかと考えたが、1、2時間の搬送には耐えられると判断し、小児を乗せた救急車は管外へ出発した。
午前11時17分に他の医院の収容引受の確認を得たので、そこへ向かい午後0時14分にその医院に到着したが、小児には呼吸困難、喘鳴、四肢冷感等が認められ、全身状態はぐったりしており、補液、酸素投与、抗生物質、強心剤の投与がなされたものの、呼吸循環不全症状は改善されず、同日午後3時に小児は死亡した。
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