【NPO法人メディカルコンソーシアムネットワークグループ理事長 山田隆司】
■対面イベントの醍醐味は
病院が情報を効果的に伝える「戦略」としてイベントがあります。長らく控えていた対面イベントも、徐々に再開させる病院が増えてくるのではないでしょうか。広報誌やSNSなどと異なり、直接医師が参加者に語り、病院職員がリアルで交流を図れるイベントは、ステークホルダーとの“ツナガリ”・関係性をさらに深めることができます。また、広報活動として重要な患者や地域住民への傾聴、双方向コミュニケーションを可能にし、情報を伝えるだけでなく自院の立ち位置を振り返る上で、とても貴重な場です。
特にイベントでのアンケートは広報誌で取る場合に比べ、回答・回収率が高く、定量・定性データとして収集できる点も魅力です。
■広報イベント。どうする?集客
しかし、一番の難関は「集客」です。集客は誰がする?当然ですが、広報です! 以前、「演劇仕立ての市民公開講座」を企画したことがあります。舞台に立つ演者のほとんどが職員(医師を含む)、サポートも職員。脚本や5カ月に及ぶ演劇指導を地元で活動する演劇の会に協力いただきました。会場は700人収容できる大きな箱。いま思い返しても、大がかりな企画でした。
成功は当日の集客にかかっています。有料広告は一切使わないという覚悟のもと、広報担当はチラシ・ポスターを配布しまくりました。それまで関係のあったステークホルダーの元を直接訪問して、配布を依頼しました。
このときの主なステークホルダーは患者、職員のほかに新聞社、テレビ局、ラジオ局、銀行、商工会議所、商店会、健康温泉施設、製薬企業、生命保険会社、医療系専門学校、連携医療機関、連携介護施設、労働衛生管理センター、保健センター、薬剤師会、臨床検査技師会、公民館、保健所、大型スーパー、タクシー会社、個人タクシーなど。生命保険会社や銀行は本店から各支店にチラシを一斉配布していただくなど協力を得ました。なんでも契約者への訪問時にツールとして利用いただいたとか。地道で地味な広報活動ですが成果は大きく、新たに多くのステークホルダーとの出会いが生まれました。
■広報イベントは「点」「線」「面」の成長因子
広報イベントは「点」を「線」、「面」に成長させる効果的な手段です。(広報の側面では)チラシを配布しながら新たな“ツナガリ”が生まれることが点から線への発展とすれば、面への発展のカギは「マスメディアの取材」にあるでしょう。マスメディアの力で不特定多数、広範囲に及ぶ周知が見込めます。
取材依頼は記者クラブにプレスリリースを配信するのはもちろん、取材される確率を上げるため新聞社やテレビ、ラジオ局などを何度となく訪問します。メディアリレーションズですね。その甲斐あって、地元新聞の社説欄、コラム、芸能欄で大きく記事になりました。NHKを含む地元テレビ局4局すべてから取材オファーがあり、ニュースなどで取り上げられました。あるテレビ局は自社制作番組で10分間の特集を組み、出演者である病院職員の日常業務と演劇の練習風景を放映していただきました。迎えた当日。定員を超える来場者で、会場外にモニターを設置して入場できなかった方にご覧いただくほど盛況でした。
■AIDMA(注目⇒興味・関心⇒欲求⇒記憶⇒行動)の法則は古くない!
広報活動で常に意識する法則があります。米国のサミュエル・ローランド・ホールが広告・宣伝に対する消費者の心理プロセスを示した「AIDMAの法則」です。1920年代に提唱されたものですが、個人的には現代にも十分通用するフレームワークだと感心します。
イベントの参加者にはこの法則に沿った行動が期待できます。健康で病院とは無縁と思って生活している方が、広報イベントに参加。数年後のある日、突然の体調不良を起こし、かつて参加したイベントの病院名を記憶から蘇らせ、自院を選択(行動)する。これは現実に起こります。実証済みですから。
■広報活動は「人とツナガル」を念頭に!
さて、連携や広報活動で「ツナガル」という言葉がよく使われます。私が違和感を覚えるのが「地域とツナガル」というフレーズです。ツナガルのは地域ではなく、地域を構成している住民では。つくづく、言葉でいうほどツナガルことは簡単ではありません。人は知性、理性、感情、思考などが複雑に絡み合う生き物ですから。そこを打破するのには、たび重なるコミュニケーションです。それしか、お互いを認識-理解-信頼することはできません。
最後に、医療の特性の大きな点は「情報の非対称性」にあります。医療サービスを提供する側が情報量を圧倒的に多く持ち、選択する側の患者に情報量が少ないという事実です。互いの信頼や尊敬は相互理解から。お互いをよく知ることからスタートします。病院の「顔」として広報パーソンが益々活躍することを祈念して終わります。
山田隆司(やまだ・たかし)
東京医学専門学校臨床検査科卒業。国家公務員共済組合連合会虎の門病院臨床検査部、診断薬会社、実験動物研究所センターを経て、1990年より医療法人鉄蕉会亀田総合病院入職。亀田総合病院附属幕張クリニック準備室室長・事務長・千葉事業部管理部長を務める。2006年より医療法人敬和会大分岡病院(現在・社会医療法人)広報マーケティング部部長、11年より同部顧問。13年より多摩大学医療・介護ソリューション研究所副所長(シニアフェロー)などを務める。現在、NPO法人メディカルコンソーシアムネットワークグループ理事長、全国病院広報実務者会議代表、病院広報誌編集会議代表、DPCマネジメント研究会理事、日本医療実践協会東海支部参与、医療法人広報顧問などを務める。
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