【株式会社メディチュア 代表取締役 渡辺優】
■診療報酬改定に応じた病棟編成の見直しが病院経営を左右する時代
全国の病院を特徴で整理するならば、どのような軸が考えられるだろうか。例えば、急性期・回復期・慢性期もしくはケアミックスなどの「病期・病態(救急・リハビリなど機能を含むことも)」、消化器・循環器・整形などの「疾患」、そして○○市などの「地域」の3つの軸で見ることで、大まかな特徴を捉えることができる。あと、設立母体の軸を加えて、4つの軸にしてもよいかもしれない。この3軸もしくは4軸は、どの病院も変わらない、もしくはコロコロ変えるものではない。
ただし、自院の特徴は変わらなくても、どの病院も診療報酬改定のたびに病棟編成などを適切に見直さなければ経営は厳しくなる。改定で病棟編成や届け出を見直すことは当たり前と認識している病院が多い。
例えば、2014年度改定で新設された地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料は2,700以上の病院が届け出を行い、病床数は約10万床=資料=。多くの病院が実際に病棟を見直していることが分かる。
22年度改定における入院機能の代表的な改定事項を挙げると、一般病棟用の「重症度、医療・看護必要度」(以降、看護必要度)のA項目から心電図モニターの管理が除外された。地ケアの院内転棟割合による減算は、許可病床数が400床以上から200床以上の病院に対象が拡大された。回リハは重症患者割合の要件が引き上げられた。これら3つの改定内容に共通しているのは、基準クリアは自院だけで解決が難しいということだ。看護必要度は後方病床への転院調整や、在宅医・介護施設などとの連携強化が不可欠である。地ケアの院内転棟は、救急患者や他病院からの転院患者の受け入れの比率を上げなければならない。回リハは、急性期病院からの転院のタイミングを早める必要がある。
なお、このような変化は22年度改定に限らない。回リハの代表的な疾患である大腿骨頸部骨折においては、急性期病院の平均在院日数が10年から20年で9日近くも短くなり、その分、回リハでの受け入れが早まっている=グラフ=。
診療報酬改定は臨床現場の負担を反映した適切な報酬を設定することに加え、より効率的で質の高い医療提供を促す側面があり、近年の改定は後者の色がより濃くなっているように感じる。それゆえ、病院は改定のたびに役割を調整しなければならない。
■自院の役割変化を利害関係者と共有できているか
早期退院・転院や逆紹介は患者・患者家族が追い出されるようなネガティブな印象を持つことはよくある。一般的に急性期の基幹病院と比べ後方病床や介護施設などは知名度が低いことや、20年・30年前の「親のときは2カ月入院させてくれたのに」といったあまりにも古い情報から更新されていないことなどが影響していると思われる。自院の大まかな特徴は変わらなくても役割は変化している。この変化に患者・患者家族の多くは追いついていない。
そして変化に対する理解が追いついていないのは、周辺医療機関・介護施設も例外ではない。後方病床や介護施設では急性期病院が早期退院・転院を望んでいることまでは理解していても、看護必要度など事細かな事情まで把握しているケースはほぼない。一方、逆も然り、病院はかかりつけ医や介護施設の事情を把握しきれていない。
さらには自院のスタッフが理解に追い付いていない、もしくは変化に悩んでいることもある。急性期指向の病院が地ケアを持ち、その病棟担当となったスタッフは、キャリアプランが崩れてしまうと感じたり、キャリアに行き詰まりを感じたりする。
このような現状において、患者・患者家族との良好な関係を構築することは、患者確保や医療従事者の負担軽減につながる。周辺医療機関・介護施設と良好な関係を構築することは、患者確保に加え、連携関連の診療報酬確保や連携業務の負担軽減につながる。自院のスタッフと良好な関係を構築することは、医療提供体制の維持や、質の高い医療提供につながる。そして、これらの先には、すべて経営改善がある。
つまり、病院経営を考える上で、利害関係者と自院の役割変化について適切なコミュニケーションを取ることの重要性は近年とても高まっている。
「病院完結型」から「地域完結型」に求められる医療提供体制が変化している。この変化に合わせ、自院の目標も「自院がいかに経営的な価値向上を図るか」から「地域でどのように医療を充実・存続させるか。その目的に向け自院がいかに貢献するか」という持続可能性を強く意識したものに変化させるべきだろう。一般論として、持続可能性をめぐる課題を掲げる組織は、利害関係者との定期的な対話と継続的な反復を通して、社会や環境の変化を予測し、対応する上で有利な立場を得ることができると言われている。利害関係者と良好な関係を築き損なえば、対立が増し協力を得にくくなりかねない。これは病院も同様である。周辺医療機関などからの協力を得にくくなれば、現行の連携を重視する診療報酬制度の下において、病院経営が厳しくなることは言うまでもない。
近年、従来からある病院年報に加え、持続可能性を強く意識したCSRレポートやサステナビリティレポートを作成する病院が増えているように感じる。病院経営環境の変化を踏まえるならば、経営の観点での広報が果たす役割はますます重要になるだろう。
渡辺優(わたなべ・まさる)
1977年生。2000年東北大工学部卒業、02年同大大学院工学研究科電子工学専攻博士課程前期修了。同年アクセンチュアに入社し、金融機関の業務改善などを担当。その後医療系コンサルティング会社に移り、急性期病院の経営改善に従事する。12年に株式会社メディチュアを設立。医療介護・健康関連の情報提供サービスやアプリケーション開発のほか、医療機関・健康保険組合向けのコンサルティングを手掛ける。
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