CBnewsは、全国の病院広報事例を集めて共有し、特に優れた広報活動を行う病院を表彰する「病院広報アワード」を開催します。現在、全国の病院からエントリーを受け付けています。審査基準は大きく▽経営視点▽体制▽企画▽制作▽成果-の5項目あり、審査員の総合的な評価で優秀賞を決定します。今回、異なる視点を持つ、それぞれの審査員に、病院広報について語ってもらう伴走企画「『病院広報アワード』受賞への道」をスタートします。
1回目は、厚生労働省「医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会」の構成員で、日本医学ジャーナリスト協会 幹事の三浦直美氏が語る「知っておくべき医療広告の落とし穴」です。病院広報を実践する上で、医療広告の考え方を知ることは第一歩。“土俵”のような存在が医療広告なのです。
【日本医学ジャーナリスト協会 幹事 三浦直美】
■医療と広告の危うい関係
医者にかかろうとする時、患者はどうやって病院を探すのでしょうか。難しい治療なら、専門医の経歴や手術件数などを一生懸命に調べるかもしれません。そこまで深刻でなければ、駅からの近さなど利便性を重視することもあります。病院に限った話ではありませんが、筆者の場合は検索サイトや口コミをよく参考にしています。やはり、できるだけ腕がよくて評判のいい病院にかかりたいと考えるものです。しかし、その口コミが公正ではなく操作されたものだとしたら、どうでしょうか?
必要なのは公正で正確な情報です。一方で、その病院の魅力や強みは知りたい。そうした意味で、ホームページなどの広報物は患者が求める情報を提供する重要なツールといえるでしょう。しかし、良いことばかりを並べ、顧客(この場合は患者)を自院に誘引しようとすれば、それは「広告」です。一般の商品なら広告に惹かれて購入することがあってもよいのですが、生命や健康に関わる医療となると話は別です。
もちろん、医療に関する広告は医療法で厳しく規制されています。具体的には、広告可能な事項が患者の必要とする情報、客観的に確認できる情報に限定され(広告可能事項)、虚偽・誇大・比較広告や、客観的事実であることが確認できない内容の広告は禁止されています。ところが、ホームページやパンフレット、院内掲示といった広報物は広告とは見なされず、医療広告規制の対象外でした。それにより、主に美容医療などの分野でホームページの情報をめぐる消費者トラブルが多発し、2017年の医療法改正による広告規制対象の見直しへとつながったのです。
■ホームページも広告規制の対象に
最大の改正点は、ホームページ等も広告規制の対象となったことです。法改正前の厚生労働省の指針(医療広告ガイドライン)では、広告は(1)患者の受診等を誘引する意図があること(誘引性)、(2)病院や診療所などの名称が特定可能であること(特定性)、(3)一般人が認知できる状態にあること(認知性)-の3要件によって定義されていました。つまり、ホームページ等は患者自ら情報を求めて検索して見るものであって、一般の人が認知できる状態とはいえないため認知性の要件を満たさず、広告とは見なされなかったのです。
法改正によって、この認知性の要件が外され、誘引性と特定性の2つを満たすものが広告として規制対象になりました。テレビCMやチラシ、ポスターなど従来の広告媒体に、ホームページやパンフレット等も加わったのです。とはいえ、ホームページを一律に広告と見なし、広告可能事項しか掲載できないとした場合には、患者に必要な情報を十分届けられません。このため、一定の条件の下に広告可能事項の限定が解除されています(限定解除)。
限定解除の要件とは、(1)医療に関する適切な選択に資する情報であり、患者が自ら求めて入手する情報を表示するウェブサイトなどである(2)情報の内容について容易に照会できるよう、問い合わせ先等を明示する(3)自由診療について、通常必要とされる治療の内容や費用に関する情報を提供する(4)自由診療について、主なリスク、副作用等に関する情報を提供する-の4点です。これらを守っていれば、従来どおり広告可能事項以外の情報も掲載できます。
ただし、当然ではありますが、虚偽広告や誇大広告に該当する表示は禁止されます。虚偽・誇大・比較優良広告がNGだということは比較的分かりやすいと思われますが、患者等の主観に基づく体験談や、患者を誤認される恐れのある治療前後の写真(ビフォーアフター)も禁止されたのが新しい点で、留意が必要です。
■広告と情報提供、微妙な線引き
体験談やビフォーアフターの禁止といった改正内容は、当時ニュースにもなっており、ご存じの方も多いと思います。しかし、その内容を正確に理解することは容易ではないと言わざるをえないでしょう。というのは、掲載が許される場合と、そうでない場合の線引きが微妙だからです。
例えば体験談や口コミに関しては、治療の内容や効果に関するものであって誘引性が認められれば、規制対象となるため医療機関のホームーページ等には掲載できません。一方で、口コミは患者にとって重要な情報収集手段です。医療機関と関係のない第三者のウェブサイト、例えば医療機関検索サイトや口コミサイトなどは基本的に規制対象外で、口コミや体験談を載せることができます。しかし、そこに医療機関の意向が入り、依頼によって口コミを取捨選択したり編集したりすれば、誘引性が生じて規制対象となります。直接的な関与でなくても、サイトの運営に医療機関が出資している場合も同様です。
ビフォーアフターについても、全面禁止となると患者に必要な情報提供の妨げとなるため、禁止されるのは治療の内容や効果について患者を誤認させるような場合です。効果があるように加工・修正された術前術後の写真が虚偽広告として禁止されるのは当然ですが、無加工の実際の例であっても、患者は一人ひとり異なるはずなのに一例をもって効果を強調することになるため、掲載できません。ただし、写真のみではなく治療内容や費用、副作用、リスク等に関する詳細な情報がある場合には認められます。
比較的分かりやすいと思われる虚偽・誇大・比較優良広告の禁止についても、判断は難しいといえます。例えば、医療広告ガイドラインを順守してホームページを作成していることを表示するのはよいのですが、過度に強調すれば行政機関が保証しているような印象を与えることから、誇大広告となります。比較優良に関しては、「国内トップクラス」「県内有数の」といった最上級の表現は、仮に事実であったとしても認められません。客観的な事実を記載すること自体は可能ですが、根拠を示す必要があります。また、著名人との関係を強調するような表示は、他院より優れていると誤認させる比較優良広告と見なされます。
■事例解説書等の活用を
以上のように医療広告の規制内容は複雑で、忙しい医療現場において、厚労省からの通知等をつぶさに読んで理解することはなかなか難しいのではないでしょうか。そこで、ぜひ活用してほしいのが「事例解説書」です。具体的な事例がないと分かりにくいことから、21年に初版が作成されています。その後、実際の違反事例や周知が必要な事例などを踏まえ、23年に改訂版が公開されました。また、医療広告規制に関するQ&A集も18年に作成され、その後22年に改訂されています。こうした資料などは、厚労省のサイトの医療広告規制に関するページに掲載されています。
医療機関にとっては、自院の良い点は伝えたいものの医療広告規制に違反したくない。患者にとっては、病院の魅力や強みは知りたいけれど公正・正確でない情報はいらない。どちらも率直な思いといえます。広報を担当する人は医療広告規制の趣旨を知り、疑問や不安は自治体の担当部署に相談するなどして、患者の適切な病院選びと受診行動に資する良い情報をどんどん発信していただきたいと思います。
三浦直美(みうら・なおみ)
日本医学ジャーナリスト協会 幹事。
厚生労働省「医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会」構成員、日本音楽療法学会認定音楽療法士。1991年時事通信社入社。社会部科学班(医療担当)、専門情報誌『厚生福祉』編集長、編集委員などを経て、2017年4月よりフリー。
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次回配信は4月19日5:00を予定しています
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