2年置きに診療報酬を見直す国の意図はどこにあるのか。厚生労働省保険局の医療課長として2014年度(平成26年度)の診療報酬改定を担当した宇都宮啓氏(医療法人社団健育会副理事長・写真左)と、CBnewsマネジメントの人気連載「先が見えない時代の戦略的病院経営」を執筆する井上貴裕・ちば医経塾塾長がこれまでの動きを振り返り、未来を展望した。全3回の初回は、地域包括ケア病棟入院料の誕生秘話が明らかに。【編集/兼松昭夫】
■在宅復帰の流れを作る
井上 宇都宮先生は、厚生労働省保険局の医療課長として14年度(平成26年度)の診療報酬改定を担当されました。
宇都宮 いろいろやりましたが、特に強くこだわったのが在宅復帰の流れを作ることでした。
その2年前、老健局老人保健課長として担当した12年度(平成24年度)の介護報酬改定では、介護老人保健施設に在宅復帰率の指標を導入しました。介護保険制度が2000年(平成12年)に創設されて以来、在宅復帰率の概念を取り入れたのはこれが初めてでしょう。
医療保険には、13年度(平成25年度)まで回復期リハビリテーション病棟入院料にしか在宅復帰率がありませんでした。そこで、急性期病院が算定する一般病棟7対1入院基本料に「自宅等退院患者割合」の基準を設定して、「75%以上」のクリアを求めました(以下、入院基本料の「病棟」という表記には「病床」も含む)。
また、地域包括ケア病棟や長期療養病棟の評価基準にも「在宅復帰率」の指標を導入しました。それによってどの種類の病棟にも在宅復帰の可能性や方向性を持たせました。しかし、例えば急性期病棟で患者が急性期の状態から回復したとしても、必ずしもそのまますぐに家に帰れるとは限りません。途中で回復期病棟、地域包括ケア病棟、療養病棟あるいは老健施設のリハビリやケアを経る必要があるかもしれません。
そこで、自宅等退院患者割合を計算する時、地域包括ケア病棟入院料や回復期リハビリテーション病棟入院料のほか、在宅復帰機能強化加算を算定している療養病棟入院基本料1の病棟や、在宅復帰率が高い老健施設など、在宅復帰の基準を満たす病院や老健に転院・退院した患者さんも「自宅等」へのカウントを認めました。地域包括ケア病棟や回復期リハビリ病棟から療養病棟や老健施設に転院する時も同様です。
これらにより、療養病棟や老健施設等に転院してもそこでとどまることなく在宅復帰の流れができるようにしました=図=。
宇都宮啓氏提供
これは、実は医療連携だけでなく、介護との連携にも大きな効果がありました。
特に急性期病院ではそれまで、入院の長期化による減点などを避けるため、患者さんがある程度の日数まで入院すると、「厚労省の方針で、あなたの病気の場合は〇日までしか入院できません(実際は、減点されるが入院は継続可能)。それを超えないように退院してください」「次の病院・施設は自分で探してください」というようなことを伝えられ、大変困ったというお話を、患者さんや家族からたくさん聞きました。
しかし在宅復帰の指標を導入したことで、基本的に「退院=在宅復帰」を意識することとなりました。もし在宅復帰できない場合、在宅復帰指標を満たさない病院や施設に患者さんが勝手に転院してしまうと、自分の病院の指標を満たせなくなってしまうので、病院はあらかじめ転院先としてふさわしい病院や老健施設を探して、患者さんをきちんとそこに紹介・転院させなければならなったのです。
それによって「メディカルソーシャルワーカー(MSW)のニーズが高まり忙しくなった」と、MSWの方からは苦情とも喜びとも分からない声が届きました(笑)。
■地ケア病棟は「ごちゃ混ぜの機能」をカバーする
井上 地域包括ケア病棟入院料(地域包括ケア入院医療管理料)もこの時にできました。
宇都宮 そう、14年度(平成26年度)は地域包括ケア病棟を作った改定です。13年(平成25年)までは、病床単位で算定する亜急性期入院医療管理料がありましたが、「亜急性期医療」が何を指すのか、分かりにくさが指摘されていました。
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次回は7月上旬を予定しています。
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