病院の受け付けや問診、精算は自動運転の送迎バスの車内で。専用ドローンが運んできた薬を自宅で受け取る…。20××年の未来の医療を想像させるような実証実験が、神奈川県内でスタートした。近年、目に付く高齢者の自動車運転による事故。こうした事故を防ごうと、免許を自主返納する高齢者も増えている。移動手段として頼みの綱となるのはバスなどの公共交通機関だが、こちらも少子高齢化に伴いドライバー不足が顕在化している。超高齢社会に突入していく中、病院へ行くための移動手段を、どう確保するのかは今後、大きなテーマとなる。そのテーマの課題解決に、「医療×自動運転」というキーワードを掲げ、徳洲会湘南鎌倉総合病院や三菱商事などが共創で取り組む。【川畑悟史】
湘南ヘルスイノベーションパークで実証実験中の自動運転車
「医療×自動運転」の舞台となるのは、神奈川県藤沢市村岡地区と鎌倉市深沢地区。県は、この地区を、住民が健康で安全に暮らし、持続可能な地域社会のリーディングエリアへ構築しながら、ヘルスケア分野の産業創出を行う「ヘルスイノベーション最先端拠点」に位置付けている。周囲には同病院や、製薬メーカーなどが入居する「湘南ヘルスイノベーションパーク(湘南アイパーク)」がある。2032年にもJR東海道線の新駅が完成し、人の流動が活発になるが、一方で長年住み続ける人も多く、高齢化率の上昇も懸念される。
自動運転車を高齢者の移動の足に
車内で問診、病院での待ち時間短縮
一般的に高齢になると病院へ通う頻度も増える。問題は病院へのアクセスだ。足腰が弱り、徒歩で行くには自信がない。家族の送迎も気を使う。免許の自主返納をすれば、移動手段は狭まる。今後、公共交通機関も減少していけば、さらに病院へのアクセスは狭まっていく。また、病院内でも、高齢ドライバーによる事故は「結構起きている」(湘南鎌倉総合病院・芦原教之事務長)。JR大船駅などから無料の巡回バスを走らせているが、台数は足りていないという。そこで同病院が目を付けたのが自動運転による患者の送迎だ。自動運転のシャトルバスで送迎すれば、患者の病院までのアクセス手段が確保できる。
自動運転での送迎バスの狙いはもう1つある。現在、無料送迎バスを走らせているが、道路渋滞も多いという。渋滞で診察時間に間に合わないことも。自動運転のバスの中では、バイタルセンシング技術を使って患者の呼吸数や脈拍数などを計測し、そのデータなどを活用しながら、リモート接続した病院がデジタル問診を行い、移動時間を効率的に活用する。
病院へのこうした移動を実現させるため、4日から、地域住民を中心に、実際に自動運転のシャトルバスを湘南アイパークで走行させ、車内で病院とリモート接続したデジタル問診を模擬的に行う実証実験を始めた。この実証実験に参画するのは、同病院と湘南ヘルスイノベーションパーク、三菱商事、三菱電機、マクニカの5者。三菱商事はソリューション全般、三菱電機はヘルスケアの制度ソリューション、マクニカは自動運転と、それぞれの視点からかかわる。「患者の移動時間の有効活用や病院の生産性向上などを調査し、有用性を検証する」(三菱商事複合都市開発グループ都市開発本部事業開発室の曽我新吾総括マネージャー)狙いだ。
ヘルスケアとMaaSが融合、地域活性も
病院帰りにスーパーへ寄り道、自動運転のルートに
実は、この実証実験は、ヘルスケアMaaSの一部で、この取り組みの前後には、面としての、こんな暮らしや街づくりがイメージされている。
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