国がICT活用による科学的介護を推進する中、福岡市は要支援者を対象にAIを活用したエビデンスに基づくケアプラン作成を支援するシステムの開発に着手する。
4月20日、同市は介護事業者向けITサービスを手掛けるウェルモと協定を結び、全国で初めてAIを活用し将来の体の状態を予測する、要支援者向けケアプランの作成を支援するシステムを共同開発すると発表した。
高島宗一郎福岡市長は要介護者の重度化防止ではなく、要支援者が要介護にならないためのAIを活用したケアプラン作成を目指す全国初のチャレンジと言い、「日本の少子高齢化にとって大きなロールモデルになると確信する」と胸を張る。【井上千子】
■人手不足に加え、要支援者向けケアプランの介護報酬は低く
「(ケアマネジャーは)医療・介護、自宅近くのサービス提供先などの知識や経験が必要な現場であるにもかかわらず、(介護報酬上は)点数的にあまり高くない」と協定の背景を高島福岡市長は述べる。
恒常的な人手不足の中、ケアマネジャー(ケアマネ)は経営的にも限られた状況で要支援者向けケアプランの作成をこなしており、なかなか科学的介護による介護予防や重度化防止にまで手が回らないのが現状だ。
そこで福岡市は人工知能やICTを活用した介護予防や重度化防止に効果的な科学的介護システムを公募。福岡市に本店を置くスタートアップ企業のウェルモに白羽の矢が立った。
■要支援者向けAIシステムが全国初の理由とは?
ウェルモは今回の協定で、福岡市が介護保険制度スタート時より蓄積している介護認定申請後の認定調査データや医療・介護のレセプトデータのほか、地域包括支援センターからケアプランの提供も受ける。
同センターを介して対象者から同意を得た上で、氏名や住所など個人情報を削除し匿名化する。約6000人分のデータを取得予定だ。
要支援者のケアマネジメントをしているのは、自治体が設置する地域包括支援センターだ。従来、民間企業がAI開発に必要なデータを入手するにはこの「半官半民」による厳しい個人情報管理が障壁となっていたという。
鹿野佑介CEOは「民間企業が、AI開発に必要な情報を取得するだけで相当な労力がかかるので採算が合わず、今まで世に要支援者向けAIシステムが出てこなかった。そのような中、民間企業だけでは取得しにくい情報を自治体との連携でクリアすることができた」と福岡市との共同開発を歓迎する。
■将来像の可視化で利用者の行動変容、重度化防止へ
ウェルモは福岡市から提供されたデータに、民間が保有するデータを掛け合わせて分析。分析結果を基に、2023年度をめどに製品発売を目指す。
具体的には、ケアマネが要支援者のアセスメント情報を入力すると、体の状態がどのように推移するのかAIが可視化する仕組みだ。鹿野CEOは製品化に際して「将来予測をして、きちんと要支援者の行動変容に結び付け、要介護度を上げないという目標を設定した」と言う。
「将来、利用者のどの機能が低下するか分かるので、『今のうち下肢の筋肉トレーニングを取り入れよう』など逆算しながら予防プランが立てられる」と強調。
将来像が曖昧な状態で知識と経験を頼りにケアプランを作成するより、蓋然性が高まるためケアマネが「確固たるプランをぶれずに作れる」メリットがあるという。
また、福岡市としても「看護師など医療系資格を持つケアマネと福祉系資格を持つケアマネとでは、それぞれ知識や経験が異なる。AIがそうした知識や経験を補完し合うことで、ケアプランの質の向上が図られ、介護予防や重度化防止につながっていく」(介護保険課)と期待する。
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