日本有数の病院激戦区と言われる札幌市。今年、創立152周年を迎える市立札幌病院は、2017年度決算で累積赤字が98億円まで膨らみ、専門家検討会を設置して抜本的な経営改革に取り組んだ。この3月末に退任を迎えた病院長の向井正也氏と、経営アドバイザーとして当時参与を務めた井上貴裕氏(現在、千葉大学医学部附属病院・副病院長、病院経営管理学研究センター長、ちば医経塾塾長)が、V字回復した当時の取り組みと、新型コロナウイルス感染症への対応について対談した。【編集、齋藤栄子】
対談は3月12日、オンラインで実施。向井正也・市立札幌病院元病院長(左)、井上貴裕氏・千葉大学医学部附属病院・副病院長、病院経営管理学研究センター長、ちば医経塾塾長
井上(以下、敬称略):累積赤字98億円に陥った経緯について。
向井:2010年から4年間は黒字が続き、約50億円の資金もあったが電子カルテを更新する際に取引会社を変えたため、患者の受け入れを制限した。受診が減ることで一時的な赤字は予想していたが、その後、増患できずに累積赤字が膨らんでいった。他の自治体病院に比べてもかなりの赤字額だったため、専門家検討会を立ち上げることになった。
井上:専門家検討会が立ち上がった時の職員の反応は?
向井:皆に危機意識があったので理解は得られた。井上さんに参与として入っていただき、10.8億円の赤字幅を18年度は赤字8,000万円へ、10億円の改善を図った。19年度は8,000万円の黒字で、新型コロナウイルス感染症がなければ2億円以上の黒字になる見通しだった。
井上: V字回復ができた要因は?
向井:当時の病院長である関利盛院長が、経営改革のスローガンとして「断らない医療をやる」と言った。これを実践して、急性期の入院患者を受け入れやすい環境を作ったことが非常に大きかった。当院の内科は専門医が多いため、以前は、例えば誤嚥性肺炎など専門性が低いケースをお断りすることもあり、「市立病院は断る」という定評がついてしまった。関院長の方針に沿い、私が内科系の副院長だったので、肺炎は絶対に断らないと決めて、輪番制にした。患者の受け入れができるようになると、市内の病院から理解が得られて依頼も増えた。後方病院のベッド確保は本当に大変だったが、転院を受けてもらえるようになったことで、在院日数の削減もできた。
井上:関院長は各部署と膝詰めでヒアリングされていた。
(残り2442字 / 全3464字)
この記事は有料会員限定です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
【関連記事】