【千葉大学医学部附属病院 副病院長、病院経営管理学研究センター長、ちば医経塾塾長 井上貴裕】
厚生労働省は、2021年3月10日の「入院医療等の調査・評価分科会」で、新型コロナウイルス患者を受け入れている施設はそうでない施設に比べて、「重症度、医療・看護必要度」(以下、看護必要度)が基準値を下回る傾向があることを明らかにした。コロナ対応によって予定手術を延期したことなどから、看護必要度が低くなる可能性もある。
20年度診療報酬改定後、半年だった経過措置が1年に、さらに21年9月末までへと延長された経緯から、今は基準を満たさなくてよいと安心している病院もあるかもしれない。ただ、「コロナだからいい」では済まされない急性期入院医療の本質が、この看護必要度には潜んでいる。
看護必要度は、改定ごとにマイナーチェンジが加えられてきた。評価される対象は進化しているが、急性期病院に求められることはシンプルであると私は考えている。それは、手術と救急(特に救急車)の受け入れをバランスよく行い、その患者を早く治して退院させることである。このことは本連載でも繰り返し主張してきた。
本稿では、「ちば医経塾」に参加する30施設の19年4-6月と20年4-6月について、急性期の一般病棟のデータを用いて看護必要度に差がつく要因を検証した。なお、今回の分析では400床以上の施設が多数含まれているため、「重症度、医療・看護必要度II」を用いた。
病院全体としての結果は、19年4-6月は退院患者が6万7,275件で、看護必要度は33.0%、20年4-6月はそれぞれ5万3,946件、38.1%と、コロナ禍も看護必要度は5ポイント程度、上昇していた。コロナにより退院患者数は19.8%減少したものの、改定の影響もあり看護必要度は決して下がっていないことは注目される。
グラフ1は、20年度改定前後の手術有無別の看護必要度を示したもので、手術なし患者は微減なのに対して、手術あり患者は18ポイントも上昇している。これは改定で、C項目の日数が大幅に延長されるなどの手厚い評価が行われたことに関係している。
さらに、入院経過日別・手術有無別に看護必要度を見ると、改定前は手術患者について特に入院初期に必要度を満たす割合が多くなっているが、在院日数が長くなるにつれて手術なし患者との差が縮小し、ほぼ同じレベルに達する。また、手術なし患者は在院日数が長くなっても看護必要度が下落する傾向にはなかった=グラフ2=。それに対して、改定後は手術患者の評価が一貫して高く、手術なし患者については経過日4日を超えると急激に必要度が下落することが分かる=グラフ3=。これは、救急医療管理加算等がA項目において5日目まで評価されていることに関係しているが、手術なし患者で急性期一般入院料1の基準値を満たすことは容易ではないことも、同時に意味する。
これらをさらに深掘りするために、予定緊急別に看護必要度を見ると、改定前は緊急入院の方が予定入院より高かったが、改定後はこれが逆転している=グラフ4=。また、改定前の入院経過日別で見ると緊急入院、特に救急車搬送入院の評価が明らかに高いのに対して、予定入院は経過日5日を超えると30%を下回る状況であった=グラフ5=。
一方で改定後は、緊急入院は経過日4日を境に大幅に下落するのに対して、予定入院は経過日11日まで高い評価が続いている=グラフ6=。改定後に緊急入院の評価が大幅に下がったのは、B14・15(認知症・せん妄)に該当し、A項目1点以上かつB項目3点以上の、いわゆる「基準(2)」が削除された影響が大きい。20年度改定で、高齢者が多くを占める緊急入院患者については入院初期のみに手厚い評価が行われたが、予定入院に多い手術患者については前述したように、C項目で重点的に評価されたことが関係している。
グラフ4
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次回配信は4月5日5:00を予定しています
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