創設から20年が経過した介護保険制度。創設時には想定し切れなかったニーズに対応するために制度は複雑化し、近年はその弊害も指摘されているところだ。一方で、新型コロナウイルスの感染拡大は、新たな課題を顕在化させている。先行きの見通しが利きにくい環境の中で、事業を安定的に継続・発展させていくには、どのような視点が必要なのだろうか。2020年11月現在で、全国27の医療機関のほか、介護、障害福祉サービスを網羅的に展開し、社会保障審議会・介護給付費分科会の委員や厚生労働省の医療介護総合確保促進会議の構成員としても医療・介護にまたがる政策への発信を続けている日本慢性期医療協会の武久洋三会長に話を聞いた。【聞き手・吉木ちひろ】
■保険制度の変化に対応するには、介護事業領域でも「医療を知る人」が有利に
―社会保障審議会・介護給付費分科会での議論も大詰めを迎えています。21年度介護報酬改定に向けた議論をはじめ、近年の制度や介護行政の動向についてどのように受け止めていますか。
「まず、全体の改定率が上がることは見込めないだろう。社会保障費の膨張に加えてコロナ禍が厳しい財政事情に拍車を掛けている。
ここ10年ほどを振り返って、介護保険サービス事業所の収支差率を見ると、その多くで収支差率が6-7%ほど下がっている。
改定率の推移だけでは分かりにくいが、加算項目が莫大に増えている一方で、算定率が1%にも満たないような加算も多い。加算が算定できない事業者にとっては実質的なマイナス改定が続く一方で、人件費の上昇が続いているのが事業者の実態だ。今後、こうした傾向はさらに強まるのではないか」
「また、政策的な動向については、近年、介護の分野に医療的な視点・要素がどんどん取り入れられてきており、この点については肯定的に受け止めている。例えば、介護保険を使ったリハビリテーションでも医師の強い関与が促され、VISITを活用したデータ提出が評価されるようになっている。老健局は今後ますます、エビデンスと専門的な知見に基づいたサービスを通じて、患者の状態改善を図るという視点を介護保険領域にも取り入れていくだろう」
「一方で、介護保険事業の要となるケアマネジャーの保有資格に着目すると、看護師などの割合は近年減少し、社会福祉士や介護福祉士の割合が増えている。その分、今のケアマネジャーは、医療分野について改めて勉強しなければならなくなっている。言い換えれば、介護保険事業でも国に評価されるサービスを提供するためには、医療の知識や考え方をよく分かっている人ほど相対的に有利になってきている」
「大手民間事業者も看護師を積極的に採用して、こうした流れを察し、対応している。一方で、ホームヘルプサービスのみを提供しているような規模の小さい事業所は、今後厳しくなってくるかもしれない」
―看取り・中重度者への対応や医療機関などの専門職との連携は、加算の算定要件などを見直すことなどを通じて、次期報酬改定でも強化が図られる見通しです。
「介護給付費分科会の委員としても度々訴えているところだが、それよりも今、我々が一番考えなければならないのは、『なぜ要介護者の増加が止まらないのか』ということだ。
要介護者が増えている原因を、多くの人は高齢化の進展によるものだと考えているだろう。
(残り2258字 / 全3630字)
この記事は有料会員限定です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
【関連記事】