【一般社団法人福祉の現場ICT活用協議会 代表理事 藤原士朗】
本記事では、“福祉の現場へのICT普及の道筋”について、前・後編を読み終える頃にはICT活用の現状に対して悲観的だった認識が、希望に満ちたものに変化することを願ってお届けします。
まずは私の自己紹介を少し。現在は幾つかの法人を持つ経営者ですが、最初の職業はプログラマーでした。大手システム開発会社に就職し、2011年に独自のビジネスモデルでシステムを受託開発する株式会社ソニックガーデンを創業しました。その会社に、新進気鋭の社会福祉法人がソフトの開発相談に来られたことをきっかけに、15年にケア記録システムを提供するケアコラボ株式会社を設立し、その後にこの一般社団法人福祉の現場ICT活用協議会を発足させています。
■日本株式会社の福祉事業部、地方支店という発想
別の業界から来た私から見ると、福祉業界のお金の流れは新鮮でした。ご利用者に提供したサービスの実績を記録し、それを国民健康保険団体連合会に報告して対価を得ます。主たる収入は、直接利用者から受領するのではなく、行政機関から受給します。これは民間企業で言えば、各支店から経理部門に実績を報告して、経理部門が一括して顧客からお金を回収しているようなものです。
福祉の世界では、日本を1つの株式会社として考えてみると、経理部門を国や行政機関が担当し、福祉はその会社の1事業部に当たります。そして、地方に点在する福祉事業者を支店として捉えて、顧客へのサービス提供を担当していると見ることができるのではないでしょうか=図1=。
図1
福祉事業者は介護保険制度や障害者自立支援法に基づいて、全国で標準化されたサービスを提供しています。事業者同士は基本的にはライバル関係になく、互いに情報共有をすることができる関係性です。これを踏まえると、ますます同じ会社に所属する地方支店として見た方がしっくりきます。
支店として捉えるならば、本社機能を持つ日本株式会社がお金を集めて配布する形は適切です。そして、顧客からの料金回収という経理部門の機能だけでなく、監査機能を行政が提供しているのも納得です。
とすると、ICTを現場に普及させる役割を担う情報システム部門(以下、情シス)も同様に、本社機能の1つとして日本株式会社から提供されるべきでしょう。ところが実態は、ICTに関してはその導入費用の補助、つまりは総務部門の役割ばかりで、ICTの選定や活用への支援といった情シスの役割は提供されていません=図2=。
このような考えに基づいて、全国の福祉事業者の情シス部門に当たる本社機能を作ることが、ICT普及の鍵になるのではないかと思い至ったのです。これが福祉の現場ICT活用協議会設立の、最初の動機です。
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