【吉備国際大学 保健医療福祉学部 作業療法学科 准教授 京極真】
Q 同僚がエビデンスに根差した医療を非常に重視する人で、何でもかんでも「科学的根拠は?」と問い掛けてきます。エビデンスが重要であることは理解できます。でも、患者さんはそれぞれ固有の人生を生きていますから、私はエビデンスだけでなく、ナラティブも重要ではないかと思っています。こういう問題は、どう対応したらよいですか?
エビデンスとナラティブを活用する方法論であるEBMとNBMの理解を深めつつ、目的と状況に応じて実践するという視座を導入しましょう。
■エビデンス vs ナラティブの信念対立
本来、エビデンスとナラティブは臨床の両輪です。エビデンスは多くの場合、研究論文で示された科学的な事実を指します。他方、ナラティブは患者さんやそのご家族が語った体験的な事実を指します。臨床は何らかの事実に沿って実践しますから、エビデンスとナラティブは両方とも、必要なわけです。
しかし、エビデンスとナラティブは対立し合う概念であると理解している人たちがいます。その場合、エビデンスは客観的知識であり、一般性が担保されたものである、と理解されます。他方、ナラティブは主観的知識であり、患者さんの個別性を表したものという理解になります。こう理解すると、エビデンスとナラティブは二項対立の図式にパチッと当てはまります。
すると、Qのように「エビデンスとナラティブのどちらを重視するか」という問いが成立してしまい、エビデンスとナラティブをめぐる信念対立が発生することになるのです。エビデンスを重視する人が尊重されると、患者さんとそのご家族の体験的な事実は否定されます。他方、ナラティブを重視する人が尊重されれば、科学的に妥当な診断・治療が否定されることになります。つまり、エビデンスとナラティブをめぐる信念対立は、それを前提にする限りにおいて望ましくない結果にたどり着いてしまうのです。
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