【津田塾大学 総合政策学部准教授 伊藤由希子】
連載では基本編・応用編として、地域医療の需要と供給のギャップを埋めるための「データ」の活用術を紹介してきた。最終回の実践編では、医療資源の集約が必要な地域での実際の議論を紹介したい。
その1 三つどもえの松阪市二次救急体制
三重県松阪市(人口16.4万人)を中心とする地域医療構想の松阪区域(人口22.3万人)には、厚生連の松阪中央総合病院(440床・前回連載のA病院)、済生会松阪総合病院(406床・同B病院)、松阪市民病院(308床・同C病院)がある(各病院の病床数はDPC病床数)。
データから見える地域の機能集約の方向性
3病院は車で10分以内の距離にあり、現状ではそれぞれ「高度急性期・急性期」医療を担っている。三次救急医療機関は、北に三重大学医学部附属病院(655床)、南に伊勢赤十字病院(651床)があり、それぞれ車で30分程度だ。
地域医療構想策定支援ツールによれば、松阪区域の住民の高度急性期の80%、急性期の84%が地域内で完結している(「三重県地域医療構想」より。データは2012年度のもの)。
グラフ 松阪市におけるDPC病院の診療密度(前回連載の再掲)クリックで拡大
Tableau Public 公開データhttps://public.tableau.com/profile/kbishikawa#!/
Koichi B. Ishikawa(National Cancer Center)から作成・加工
前回、松阪では地域の規模(必要とされる医療需要)に比べて現状で2割近く病床が多いと説明した。また、松阪区域では人口10万人当たりの救急搬送件数が18.8件/日で、三重県平均の12.4件/日に比べて、52%も多い(「三重県消防防災年報(2017)」より。データは14年のもの)。
つまり、地域の人口規模に比して、量的には急性期の医療機関が豊富(=過剰な供給)な環境により、市民も救急搬送に頼りがちの面(=過剰な需要)が生じている。入院・手術などの治療が必要な「実需」を見れば、DPC病床の稼働率は3病院とも70%台である。1日600点以上相当(急性期基準)の医療資源の投入がある病床はそのうち60%で、病床全体で見れば半分程度だ。
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