未曾有の少子・高齢化で、在宅復帰しにくい高齢患者の入院が増えている。その一方で、財政再建を目指す政府は、医療関連の歳出の伸びを抑えようと制度改革を進める。病院の経営環境は厳しさを増すばかりだが、そんな中で今度は、医師らの「働き方改革」が浮上して-。日本病院会(日病)の相澤孝夫会長は、そんな経営環境の変化に対応するため、各病院が「マネジメント力」を高めてうまく連携し、住民の医療ニーズに地域単位で対応すべきだと指摘する。【聞き手・構成=佐藤貴彦】
■根幹は助け合い、日本の「優しい医療」
日本の病院には良いところがたくさんあります。例えば、病気になった患者さんが入院したら、日常生活に戻れる状態になるまで責任を持って診るのが当たり前でした。それは優しくて親切で、思いやりある医療ではないでしょうか。
皆保険制度も世界に誇れるものです。その根幹には国民みんなで助け合う気持ちがあり、お金を出し合って制度を支えています。
みんなの優しい気持ちで成り立つ制度の中で、病院はこれまで、必要に応じて患者さんを入院させ、退院するまで診れば、それなりに経営できるだけの報酬を得ることができました。
■従来型の医療提供では「立ち行かない」
しかし状況は変わり、従来のやり方では立ち行かなくなりつつあります。まず政府の財政状況の問題があります。次に医療技術の領域ごとの進歩があって、全病院がすべての診療科で最先端の技術を提供する、なんてことは現実的でありません。
さらに今後、高齢化の高い波が押し寄せます。2025年には人口ボリュームが大きい団塊世代が75歳以上になり、その時点で75歳以上の人が総人口の17.8%を占めます。55年には、4人に1人(25.1%)が75歳以上になると推計されます=グラフ=。
75歳以上の患者さんは、多くが複数の慢性疾患を持っています。生活障害があり、介護してくれる家族が近くにはいない、といったケースも少なからずあります。そうした患者さんを家に帰すため、生活支援をどう提供するかは病院にとって既に大きな課題です。
■入院し続ける患者は幸せか
従来型の医療では、入院させ続ける選択肢もありました。でも、入院期間が長い患者さんが100人に1人くらいなら対応できても、60人くらいを占めたらどうか、ということが問われます。
それに、入院し続ける患者さんは幸せなのでしょうか。病院は生活の場ではないので、私はちょっと違う気がします。そこで、日本の医療の良いところを損なわないように注意しながら、やり方を変える必要があると思います。
■地域単位での団結が「大変に重要」
高齢化の進み方は地域によって全く違います。75歳以上の人が特に増える都市部では、生活障害があって自宅に帰りにくい患者さんの住まいをたくさん用意しなければならないでしょう。その一方で、人口減少が医療ニーズに強く影響する地域もあります。
課題が山積する中で、「ここで暮らしていてよかった」と患者さんに思ってもらえる医療を病院が提供し続けるには、どうしたらよいのでしょう。私は、地域単位で病院が団結し、それぞれの役割を再考することが大変に重要だと思います。
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