【千葉大学医学部附属病院 副病院長・病院長企画室長・特任教授 井上貴裕】
2016年度診療報酬改定ではDPC/PDPSの保険診療指数で「病院情報の公表」が評価された。
「DPC データの精度の向上」「医療機関の地域における役割の見直しの促進」「医療機関のDPC データの分析力と説明力の向上」「一般市民への情報公開の促進」などを目的とし、病院がDPCデータを分析し、それにコメントすることには、自らの立ち位置を再認識するという側面があるのも事実だろう。また、医療機関へのアンケートを事前に行い、この仕組みの導入を妥当と判断した上で実施されこともあり、積極的な情報開示につながった面もあっただろう。
しかし、私は情報公開については「推奨」で十分であり、係数の評価を付けて餌をまくようなことは、予算のバラマキに等しいと考えている。もちろん、医療機関が情報を積極的に開示することを否定するものではなく、Quality Indicatorなどの情報を開示することで、職員が医療の改善に向けて本気になり、質向上につながることもあり得る。ただ、係数で評価することはある意味、情報開示を画一的に強制することになる。また、臨床医には情報公開に否定的な意見が多いことから、現場の事務職員などは困っているケースも多いだろう。今回は病院指標の公開制度の課題について検討する。
■がんのステージ分類などが実態と乖離する
課題の1つ目は、診療科別に症例数トップ3を出す点だ。仮に一般市民への情報公開の促進が目的ならば、トップ5に拡大したところで実態は伝わらないだろう。診療科の特性にもよるが、一般的にコモンディジーズの件数が多くなる。患者・家族に「高度急性期病院でも簡単な症例しか実施していないのか」といった誤解を与える恐れがある。
もちろん、コメントで診療科のウェブサイトを参照させるなどの工夫は各医療機関で行っているだろうが、統一フォーマットなので、他の医療機関と比較されやすく、誤解を招きかねない。高度急性期病院が希少疾患に対応していたとしても、その実態が見えてこないのは残念だ。「隣の病院と比べて特色を示せないようなデータは出したくない」と思う医師の気持ちも十分に理解できる。
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次回配信は8月7日5:00の予定です
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