厚生労働省の「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」の座長を務めた東大大学院の渋谷健司教授(医学系研究科国際保健政策学教室)は、医療界として働き方を変えていかなければ、若い人が残らず、新たな人材を失うことになると訴える。また、目の前の患者にとっての医療の価値をもう一度問い直す必要があるという。【大戸豊】
渋谷教授は、働き方を変えるといっても、業務時間を短くし、早く家に帰ることだけではどこかにしわ寄せが来ると言う。今ある医療・介護のリソースを最善の形で組み合わせ、患者のニーズに応え、より高い価値を生み出すことが本当の目標になるという。
普通の産業セクターであれば、マネジメントを進め、人的資源を適切に配置するというのは当たり前のことでも、医療の世界は独特の構造的・制度的な制約があり、そのような仕組みがうまく回っていない状況にある。「働き方改革」が注目される中、医療の世界もやるべきことをやっていきましょうというのが、今回示した報告書の基本的なスタンスだ。
検討会では、医師が本来業務に集中するための方法や他の職種への業務シフト、女性医師がさらに活躍できるための柔軟なキャリアの在り方、都市と地方での医療需給の偏在、医療と介護の連携など、幅広いテーマを話し合った。また、医師10万人を対象にした大規模な勤務実態調査では、約1万6000人から回答を得ている。
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■医師は医師にしかできない仕事に集中
報告書は、
(1)能力と意欲を最大限発揮できるキャリアと働き方をフル・サポートする
(2)地域の主導により、医療・介護人材を育み、住民の生活を支える
(3)高い生産性と付加価値を生み出す
の3つを柱としている。
(1)のキャリアと働き方のフル・サポートについては、医療現場での働き方を組み替えていくものといえる。
医療機関では、これまで診療科間の連携を促すマネジメントが十分機能しておらず、一部の診療科に負担が掛かり、所属する医師の自己犠牲的な働き方で何とか成り立っていた側面がある。また、女性医師については、出産や子育てをきっかけに、専門医の資格やキャリアをあきらめることも少なくない。勤務を続けられない背景には、医局の“男性文化”も影響している。
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