【佐賀大理事・副学長 宮﨑耕治】
渡り鳥を見ていると、春になっても大陸へ帰れないカモがいる。恐らく何らかの原因で傷つき、春の渡りをあきらめたのであろう。ところが、つがいなのか、これに寄り添い残留するカモもいる。傷ついた相方に同情して暑い日本の夏季を一緒に過ごす決意をしたと思われる。それはつまり、動物であっても傷ついた仲間への思いやりを持っていることの“証し”であろう。
しかし、さらに進んで、仲間の傷に手を当てたり、添え木を当てたりするのは人間だけである。医療は、弱者への思いやりから始まり、祈りから手当て、処置へと進化してきた人間だけに見られる行為だ。無論、代償を求めての行為ではなく、手助けせずにはおれぬ崇高な気持ちが起源であろう。
にもかかわらず、医療者が特に地方の医療現場から立ち去る、いわゆる「医療崩壊」が2006年ごろから叫ばれ始めた。原因はこまごま解析されたが、いまだ、不足・偏在分野の解消には至っていない。
医療への経済原理の導入、国民の意識の変化、医療業務の増大、医療者の偏在、都会と地方間のさまざまな利便性の違い、国公立と民間の給与格差、訴訟リスクの増加など、多様な社会の変化によって、「医は仁術」の理念だけでは医療を維持することが困難となっている。
次回の記事配信は、2月9日5:00を予定しています
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