【富永愛(富永愛法律事務所 弁護士、外科医)】
美容外科は、美しさへの飽くなき欲求に奉仕する自由診療が基本です。多くの医療従事者は、疾病や負傷を治療する医療とは「別の世界」と思いがちでしょう。
しかし、技術の進歩に伴い、より低侵襲で整容性を重視した治療はどの分野でも進んでいます。著名なハリウッド女優が予防的乳房切除を行い、インプラントで再建したことが話題になったように、特に乳がんの分野は、医療と美容が切り離せない典型例と言えます。今回は、乳房を例に、保険診療である乳がん治療と自由診療である美容外科(豊胸術)の関係を基に、自由診療との境界にある整容性を重視した医療のリスクについて、考えてみたいと思います。
そもそも、美容外科は医療なのでしょうか。医療従事者にとっては、一般的な医療とは別のものという感覚が強いかもしれませんが、いわゆる通常の民事訴訟では医療として扱われており、医療政策的にも1978年の医療法改正によって「美容外科」が標榜可能な診療科名の一つとされています(医療法70条1項)。現在では、美容外科は広い意味での医療行為と考えるのが一般的です。
ただ、美容外科を含む自由診療には、一般的な医療と異なる面があります。
治療を目的とする一般的な医療は、身体に侵襲を加えた結果、生命に危険を与えたとしても、許される面があります。たとえ治療後に残念な結果が生じても、許される部分があるのです。
「治療目的なら身体を傷つけることが許される」のに対して、美容外科の世界に、この理論は通用しません。この問題は、未確立な先進医療を実験的に行う際なども同じです。 次のページ>美容外科と保険診療の関係
(残り2994字 / 全3701字)
この記事は有料会員限定です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
【関連記事】