【小島崇宏(北浜法律事務所・外国法共同事業 医師、弁護士)】
「股関節が痛いから、膝が痛いから、もっと快適な日常生活を求めて整形外科で手術を受けたところ、手術後に死亡してしまった」-。家族としては、にわかに納得できる話ではありません。手術後の下肢深部静脈血栓症および肺梗塞症は、今でこそ種々のガイドラインが作成され、予防法および治療法が確立されつつありますが、本件が発生した2000年当時は、画一的な指針などはありませんでした。このような中で、裁判で医師の過失が問われたのが本件ですが、過失判断の前提となる医療水準を裁判所はどのように判断していたのでしょうか。
患者Aは、1997年頃から股関節痛を覚え、2000年2月頃、痛みが強く歩行時に跛行(はこう)を呈するようになりました。近医から被告病院整形外科を紹介され、変形性股関節症との診断を受け、同年3月24日に右キアリー骨盤骨切り術を受けました。
その後、同年4月5日午後9時10分頃、患者Aが看護師を呼び、「咳が出るんです。咳止めをもらえませんか。もともと喘息のけがあるっていわれとんです」と訴えました。この際、呼吸音弱め、肺雑音なし、息苦しさなし、SaO2は95―96(深呼吸で97)でした。看護師が内科を受診するかどうか聞くと、患者Aは「受診したい」とのことで、看護師は医師に報告しました。
同日午後10時、看護師が巡回すると、患者Aは、顔面蒼白の状態で閉眼しており、ショック状態に。肺塞栓症と診断され、ICUに収容されて治療を受けましたが、翌日午前9時53分に死亡しました。
これに対し、患者Aの夫および子らは、被告病院を運営する日本赤十字社を相手取り、総額1億4038万円の損害賠償金の支払いを求めて訴訟提起しました。 次ページ>この訴訟の争点
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