【千葉大学医学部附属病院 副病院長、病院経営管理学研究センター長、ちば医経塾塾長 井上貴裕】
2020年に引き続き、今年も病院は新型コロナウイルス感染症との闘いに明け暮れた。直近は状況が落ち着きを見せて、新規入院患者がほぼゼロという病院が多かったはずだ。しかし、オミクロン株の影響で着実に患者が増加する危険性がある。
一方で、この2年の闘いを経て、医療界に対する信頼はさらに厚いものとなり、多額の寄付をいただき、空床確保のコロナ補助金も投入された。連載第147回では、「コロナバブルの過去最高益をどう考えるか」との問い掛けをした。今まで赤字だった病院が12年度以来、8年ぶりの黒字となった20年度決算であったが、医療界に投入されたコロナ対策費の予算が4.6兆円であるのに対し、国全体は77兆円だという。これだけ社会を支えた医療界に対して、多過ぎる配分だったとは言えないと、私は考えている。とはいえ、時限的に多額で、いずれ消滅するものだとすれば、「バブル」と名付けたこともあながち間違ってはいないだろう。
なお、77兆円のうち約3割は中小企業関連に配分されたそうで、残念なことに、逮捕者も出た持続化給付金等が関係するものである。1日6万円が支給された飲食店の経営実態は明るみに出づらいが、病院決算の多くは開示される。コロナ補助金は、何とか21年度中は継続されるだろうが、その後は病院が自らの足で歩んでいかなければならない。補助金は、一度もらうと癖になり、中毒症状に陥りがちで、足腰が立たなくなる恐れもある。多くの国公立病院の経営を間近で見てきた私は、そう感じざるを得ない。私たちはいま一度、襟を正して、病院経営のあるべき姿を考えるべきタイミングに直面している。
けれども、現実は厳しい。患者数、特に紹介患者が戻らないという病院は多いだろう。20年に比べれば回復したものの、コロナ前の19年の水準には至らないケースが多い。ただし、ここは病院の真価が問われていると肝に銘じるべきである。力のある病院はコロナを言い訳にしないし、むしろ直近では患者数を増加させている。
焦る必要はない。ただ、コロナだから仕方ないという発想はそろそろ捨てないといけない。地域を支えるために、自院が果たすべき機能は何かをいま一度考え、行動に移す時だ。地域医療構想で求められているからでなく、自ら行動すべきだ。医療が消滅すれば、その街に人が住めなくなる。そして、職員や関連企業など、さまざまな利害関係者に対する責任を、病院経営者は果たさなければならない。
(残り2168字 / 全3232字)
次回配信は1月17日5:00を予定しています
この記事は有料会員限定です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
【関連記事】