【法律事務所おかげさま 代表弁護士 外岡潤】
「室内暴走利用者から職員の身を守るには?」というテーマで前回、入居施設におけるハラスメント問題を取り上げました。利用者が職員に車椅子でぶつかってくるという、なかなか見ない事例でしたが、暴力がひどい場合は精神保健福祉法に基づく措置入院という強制措置が考えられます。そこまで至らない場合は民事上、施設からの契約解除を検討することになりますが、その際、入居契約書の解除規定が非常に使いづらい定め方になっていないかを検討しました。
解除が契約上、成し得る状態になったとして、次に立ちはだかる問題が「物理的に利用者を追い出すことができない」という点です。もし自宅前や公園などに置いて帰ってきてしまえば、刑法上「保護責任者遺棄罪」に該当してしまうためできません。
現実には、利用者本人やその家族の協力(少なくとも引き渡しを受ける行為)がなければ、退去は実現しないのです。
入居施設の事業者にとって、最大のリスクはこの点(利用者の「居座り」)にあるのですが、法的に解決しようとすれば、契約解除を断行した上で入居した状態の利用者を提訴する(居室明け渡し請求訴訟)ほか、手段がないことになります。そうなると大ごとになり、マスコミ等も面白がって報道するかもしれません。
さらに言えば、解除後は理屈上、「その施設にいないはずの利用者」ということになり、介護保険が使えないことになります。これまで1割負担で済んでいた利用料が、解除後の月からは10割負担となり、全額を利用者に請求していかなければなりません。そうなると利用者側にとっても多大な負担となりますが、一方で、施設側は回収不能というリスクも背負うことになり、いずれにせよ、それぞれが非常に難しい立場に置かれることになります。
ただし、上記はあくまでも特定施設の話です。これが、サービス付き高齢者向け住宅のような「住宅型」の場合はどうなるのでしょうか。ここが前号で言及した「落とし穴」なのですが、要するに住宅型の場合は入居と訪問、デイ等の介護サービスを組み合わせて提供するところで、入居契約だけを解除しても訪問等のサービス契約は残ってしまうのです。「では、介護サービスも併せて解除すればいいではないか」と思われたかもしれません。しかしそのためには、別途そのサービスに関して利用者が、契約継続が不可能なほどの背信行為をしたという事実を特定し、摘示する必要があります。言い換えれば、そのサービスの提供中に起きたことでなければ解除の理由にならないのです。
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