【千葉大学医学部附属病院 副病院長、病院経営管理学研究センター長、ちば医経塾塾長 井上貴裕】
2020年度診療報酬改定は重点項目の1つ目が「医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進」だった。具体的な方向性として、長時間労働の改善、救急医療体制の評価、ICTの活用が挙げられた=表=。なお、18年度診療報酬改定の重点項目では、医療機能の分化・強化、連携と地域包括ケアシステムの推進が1つ目で、負担軽減と働き方改革の項目は3つ目だった。つまり、1つ目と3つ目が入れ替わった。ただ、いずれも病院経営にとって大切なのは間違いなく、改定内容にも強い影響を及ぼした。
表 令和2年度診療報酬改定の基本方針(概要)
【参考】平成30年度診療報酬改定の基本方針(概要)
今回改定の1丁目1番地といえるのが、「地域医療体制確保加算」であり、今後日増しに注目が集まっていくことだろう。届け出には、救急車搬送年間2000台以上が求められ、さらに適切な労務管理を行うことを前提に、入院初日に520点という高額の報酬が設定された。
今回改定は診療報酬が0.55%のプラスであり、そのうち0.08%は消費税財源を活用した救急病院における勤務医の働き方改革への特例的な対応が行われ、この部分が充当されたわけだ。その趣旨からすれば、救急車台数で一定の実績を有する病院を評価することは妥当であるし、限られた財源の有効活用という意味において、どこかで基準を設けざるを得なかったのだろう。
ただ、今後の制度設計を再検証する際の素材を提供する意味で、救急車という基準が本当に妥当なものといえるか、さらに2000台というハードル設定の実態に迫っていく。
■300床未満で2000台という基準は非常に厳しい
救急車搬送が急性期患者の評価として行われたのが、16年度の診療報酬改定であり、その際に「重症度、医療・看護必要度」(以下、看護必要度)のA項目で「救急搬送後の入院」(2日間)「あり」が2点とされた。連載の第25回では「救急車搬送のみは妥当か」という問題提起を行った。救急車搬送だけを評価すると、救急車の奪い合いになりかねないし、「救急車に乗ってきてください」という病院が出てくる可能性もあるからだ。
もちろん救急車は重症のバロメーターであり、脳卒中や心筋梗塞の患者を対象に、重症患者ほど救急車搬送割合が高くなることをデータから明らかにした。ただし、家族が自家用車で連れてきたら「重症」の定義から外れてしまうため、制度設定としては、重篤な緊急入院である救急医療入院に限定してはどうかという提案をした。とはいえ、救急医療入院の算定率には地域差があるため、その点をどう考えるかという点にも言及している。
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次回配信は3月1日5:00を予定しています
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