病院の未収金は、経営を圧迫しかねない最重要課題の一つ。医療機関側の弁護を専門とする棚瀬法律事務所所長の棚瀬慎治弁護士は、未収金発生防止のためには、「発生させた未収金は何としても回収する」という職員の意識の共有と、職員の異動に左右されない未収金管理システムの構築が最も重要だと言う。【齋藤栄子】
■2018年11月の未収金平均は1644万円
厚生労働省の医療施設経営安定化推進事業「医療施設における未収金の実態に関する調査研究」では、2018年11月から19年1月にかけて全国の病院を対象にアンケート調査を行った(MS&ADインターリスク総研委託、有効回答数1011施設)。
10月と11月の各月に「未収金がある」と回答した888病院/10月、871病院/11月の、単月の平均未収金/対応する平均患者数は、10月が1285万円/225人、11月が1644万円/235人だった。
未収金管理におけるマニュアルについて、「整備している」が66.0%と最も多く、次いで「整備しておらず、する予定はない」が17.5%、「整備していないが、する予定がある」が15.2%の順だった。9割以上の医療機関が、未収金回収のために管理する項目として「未収金額」「患者名」「未収金の発生時期」を挙げた(複数回答)。一方で、「患者の銀行口座情報」(5.7%)、「患者の前払い金情報」(24.4%)まで管理している医療機関は限定的だった。
「その他」では、「患者情報(住所、連絡先、健康保険情報、勤務先等)」「保証人情報(住所、氏名、連絡先等)」「分割払いに関する文書」「支払いに関する誓約書といった締結した書面」などが回答に挙がった。
未収金回収対策の外部委託における手段と効果について、「弁護士への委託」を手段とする回答が最も多かったが、効果が「大」は13.3%、「なし」は36.0%だった=資料=。他の手段においても、効果が「なし」は8割以上で、特に「医業コンサルタントへの委託」は100%だった。未収金が発生した場合の回収の困難さがうかがえる。
資料 「医療施設における未収金の実態に関する調査研究」報告書より
このため、「窓口での未収金発生防止」に力を入れることが大事になる。調査研究で委員を務めた棚瀬弁護士は、「未収金を発生させない」「発生させた未収金は何としても回収する」など職員の意識改革が最も重要と言う。中でも、職員の異動により責任の所在が曖昧になることが障壁になるため、「異動に左右されない未収金管理システムが必要だ」と話す。
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