【千葉大学医学部附属病院 副病院長、病院経営管理学研究センター長、ちば医経塾塾長 井上貴裕】
■病院の利益が外部に流出したという見方も
日産自動車のカルロス・ゴーン前会長が、有価証券報告書の虚偽記載および企業資金の私的流用などにより逮捕されたことは世界中を驚かせた。前会長が日産自動車をV字回復に導いた功績は評価されてきたし、名経営者と言われてきたのも事実だ。同社のガバナンスに問題があったという見方もあるだろうし、巨額の報酬が記載されていないのだとすれば、監査法人などの責任も問われるかもしれない。
世界的企業と病院では比較しようがないものの、数十億円という報酬は病院経営者には期待できない。もちろん、わが国で医療機関は上場できないし、公定価格である診療報酬による収入がほとんど全てで、それは保険料と税金で賄われており、それほど大きな利益を得ようとする発想自体が間違いなのだろう。
病院長の年収は決して高いものとはいえない=表1=。全体で見ると2600万円強で、開設主体別では、医療法人が3000万円を超える。これは一般人からすれば、かなりの収入なのは事実だ。しかし、医師であることに加え、医療法人の場合には銀行借り入れの個人保証などリスクを負いながら経営していることを考慮すれば、決して高過ぎる金額ではないだろう。もちろん、医療法人の場合には、親族やMS法人に対して資金が流れていることもあるかもしれないが、病院の経営環境が厳しい今日、そのような額は限定的ではないだろうか。
一方で、大手調剤チェーンの日本調剤株式会社の代表取締役の報酬は8.2億円で、大株主であることから配当収入もあるはずだ。同社の連結売上高は2412億円で、経常利益も101億円となっている。それで従業員数が4000人強だというのだから、驚異的な収益性だ(東大医学部附属病院の職員数は約4000人、2017年度の収益は475億円となっている)。
同社は調剤薬局事業に加え、医薬品製造販売事業、さらには医療従事者派遣・紹介事業をも行っており、多角化のシナジー効果もあるのだろう。上場企業であるし、自らの努力で上げた業績に基づき、公正なメカニズムで決定された役員報酬であろうから、誰も文句を言うものでもない。
しかし、薬局の業績の良さは、医薬分業という政策の下で、かつて病院が享受していた利益が外部に流出したという見方はできないだろうか。医薬分業は着実に進展し、15年には70%に達しているし、今後もこの流れは続くかもしれない=グラフ=。
今回は、保険薬局と医薬分業率の違いによる一般病院の収益性を確認し、今後の保険薬局に求められる役割について論じていく。
日本調剤 有価証券報告書(2018年3月期)
東大平成29年度決算の概要
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