病棟看護師の多くは、患者の退院後の生活に関心を持っている。部門異動の志願を募ると、退院後の患者の生活をケアしたいと考える看護師が少なからず手を挙げると考えられる。異動する看護師には、定期的な訪問看護か、医師の訪問への同行を担当させる。
在宅部門を立ち上げた直後は特に、こうした看護師が重要な役割を果たすと大石社長は強調する。患者の生活に寄り添う在宅医療の考え方に、医師よりも看護師の方が順応しやすいためで、在宅医療に不慣れな医師と患者の間に看護師が入ることで、トラブルを防ぐ効果が期待できるという。
■若手医師を非常勤採用、徐々に勤務時間拡大
病院の医師が在宅医療に積極的でない場合、医師を新規採用することになる。在宅医療に詳しいベテラン医師を採用できればいいが、在宅医療のニーズの高まりを受け、そうした医師が引っ張りだこの状態にあるという。
そこで大石社長が勧めるのは、「スーパーローテイト」の臨床研修を修了し、在宅医療に興味を持っている若手医師の採用だ。そうした医師は、相対的に給与水準が低い。
若手医師は非常勤で雇用し、まずは週に半日程度から始める。受け持つ患者数に合わせて勤務時間を徐々に増やしていき、最終的には常勤医師が訪問する体制に切り替える。並行して採用活動を進めれば、その段階までにベテランの在宅医を雇用できる可能性も「十分ある」(大石社長)。
■病院はベテラン在宅医を採りやすい?
なお、引っ張りだこのベテラン在宅医が、今年春の診療報酬改定の影響で一時、転職市場に放出されたという。施設の患者を中心に在宅医療を提供する医療機関が、収益の水準を維持できなくなったためで、非常勤のベテラン在宅医が少なからず解雇された。既にそうした医師の多くは新しい勤務先を見つけたが、今後も非常勤の医師を手放す医療機関が現れると大石社長は見ている。
さらにトレンドとして、病院勤務に魅力を感じるベテラン在宅医が増えていると大石社長は指摘する。もともと、高齢患者に対する入院医療の在り方などに疑問を抱いて病院を離れ、在宅医療の世界に飛び込んだ医師の一部が、経験を積むうちに、「いざというときに患者を入院させるベッドがあった方がいい」と考え始めたためだ。
このため、病院であることをアピールポイントにして採用活動に取り組めば、早期にベテラン在宅医を確保でき、在宅部門の立ち上げがぐっと成功に近づくかもしれない。
■療養型病院は施設患者から訪問
一方、療養型病院の場合も、成功のポイントは急性期病院と大きくは変わらない。
ただ、急性期病院と比べて看護師が少なく、在宅部門に異動させるだけの数がいないかもしれない。訪問する看護師を自前で確保できない場合、看護師が常駐する介護施設などの患者を受け持てば、大きな失敗を防げると大石社長は指摘する。
■一人歩きするパンフレットを作ろう
立ち上げに際し、患者確保が重要なのは言うまでもない。大石社長は、「一人歩きできるパンフレット」を作成するよう勧める。「一人歩き」させるためには、在宅医療を担当する医師や看護師の紹介にとどまらず、どんな医療を提供できるかを読み手が想像できるような情報を盛り込む必要がある。
特に重要なのは、自院の特色を打ち出すことだ。そのためには、地域の在宅医療の提供体制についてきちんと下調べし、戦略を立てるべきだろう。
■連携先の報酬ルールもある程度把握して
さらに、近隣の医療・介護の連携先との良好な関係づくりも欠かせない。大石社長は、特に医事課職員がカギを握ると言う。そうした職員が、居宅介護支援事業所のケアマネジャーにパンフレットを手渡すといった「営業」を担当することになると考えられるためだ。
連携先となる訪問看護ステーションなどが報酬を請求する際のルールを、医事課職員がある程度把握することも求められる。医師の指示の出し方によっては、連携先で報酬を請求できない可能性があるためで、そうしたケースが続けば良好な関係は望めない。
もちろん医事課職員は、自院が診療報酬・介護報酬を請求するためのルールも把握しておく必要がある。そうした知識は、在宅部門の立ち上げで期待される収益性などを院内で説明する際にも活用できるはずだ。
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