高齢人口の増加で、2040年には年間167万人近くが亡くなる見込みだ。 “看取り難民”を生まないため、在宅医療の提供体制の整備が急がれている。コンサルティング会社メディヴァ(東京都世田谷区)の大石佳能子社長は、需要の高まりなどを受けて在宅部門の立ち上げを検討する病院経営者が増えているが、半面、院内の体制を整えられず、断念することも多いと話す。その理由と、部門の立ち上げ成功のポイントを聞いた。【佐藤貴彦】
40年の推計死亡者数は、昨年の実数と比べ38万人多い。およそ40万人分の看取りの需要をどうカバーするのかが、国や地方自治体にとって大きな課題となる。
とはいえ、40年はかなり先だ。それに先立つ25年に団塊世代が75歳以上となり、医療・介護のニーズが増大することから、同年に向けた地域包括ケアシステムの構築も急ピッチで進められている。また、18年には診療報酬・介護報酬の同時改定が控えているし、介護療養病床が設置期限を迎える。多くの病院経営者にとって、喫緊の課題に対応するので手一杯なのが実情ではないだろうか。
ただ、大石社長は、“看取り難民”の問題を正しく認識すべきだと指摘。そのために、年間40万人を看取るのに必要な診療所の数を試算した結果を示す =図= 。
試算は、内科を標榜する診療所6万施設前後のうち、5万7000施設が在宅医療に取り組むと仮定し、3パターンに分類するものだ。年間2人看取る「外来型」と20人看取る「併用型」、100人看取る「強化型」に振り分けると、40万人看取るためには「外来型」が5万施設、「併用型」が5000施設、「強化型」が2000施設必要になる。
パターンごとに現状と比べると、必要な施設数は、「外来型」が約10倍、「併用型」が約8倍で、「強化型」に至っては約36倍に増やす必要がある。国は診療報酬によるインセンティブなどで在宅医療を推進しているが、「今の延長線上では全く追いつかない。このままだと在宅医療の担い手が足りない」と大石社長。約167万人の看取りに対応するためには、病院も在宅医療に乗り出す必要があると呼び掛ける。
■在宅医療で収支改善すると感じるが・・・
そんな中、在宅部門の立ち上げ支援なども手掛ける同社には最近、病院からの相談が「すごく増えている」(大石社長)。背景には、厳しさを増す中小病院の経営環境がある。14年度改定などで7対1入院基本料の要件が見直された影響が、じわりと現れているのだ。
そうした病院が検討できる打開策として、地域包括ケア病棟の開設などに加え、在宅部門の立ち上げが挙げられる。大石社長は、在宅医療は入院医療と比べて利益率が高いと指摘する。人員が少なくて済む上、基本的に自前の建物などが不要なので総合的にコストを抑えられる。
また病院が在宅医療に乗り出せば、患者の容体が悪化したら入院させ、急性期を過ぎたら自宅などに帰して管理するといった流れをつくることができる。病床の稼働率アップや平均在院日数の短縮につながり、入院医療による収益の増加が期待できる。
ただ、各地で地域包括ケア病棟の“開設ラッシュ”が起きているのと比べ、実際に在宅部門を立ち上げる病院は一部にとどまるのが実情だ。大石社長は、「在宅医療を始めるメリットがあると経営者が感じても、自院の誰がいつ何をするのかを考える段階で止まってしまうことが多い」と話す。
では、どうすれば在宅部門の立ち上げを成功させることができるのか-。ケースごとに聞いた。
■急性期病院では病棟看護師を在宅部門に
まずは、7対1入院基本料の届け出の取り下げを余儀なくされた急性期病院を例に挙げる。そうした病院では、雇用する看護師が、施設基準上の人員配置基準と比べて余剰になると考えられる。そこで、病棟看護師の中から在宅部門を支える人員を確保するべきだと大石社長は呼び掛ける。
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