地域医療構想の前に、地域構想がない―。2014年9月、地域医療構想に関する厚生労働省の検討会の初会合で、全国自治体病院協議会(全自病)の邉見公雄会長(赤穂市民病院名誉院長)がそう指摘した。その後、同省が定めたガイドラインを参考に、各都道府県が地域医療構想の策定作業を進めているが、同構想と連動した地域づくりのビジョンは不在のままだ。邉見会長は、民間病院が手を出しづらい“不採算”の医療をこれまで担ってきた公立病院が、地方創生などの地域づくりの担い手になるしかないと話す。【聞き手・構成=佐藤貴彦】
現在の診療報酬体系では、必要な医療を提供したら不採算になる場面が少なからずあります。
例えば、人口が少ない地域にも急性期病院が必要ですが、そこでは医師や看護師を集められず、7対1のような手厚い人員配置の評価を受けることができません。さらに、そうした地域でも、夜間の救急搬送に備えて医師らを待機させなければなりませんが、やった分だけ報酬が付く出来高制なので、患者が来ない“空振り”の日の手当てはゼロです。
都市部においても、数年に一度しか患者が現われない疾患の治療薬を、どこかの病院が常備しなくてはなりません。また、新興感染症の患者を受け入れた病院では、感染拡大を防ぐために病床の一部を使用できなくなり、数千万円単位の減収を余儀なくされます。
つまり、有事に備え、地域住民の生命を守る病院は、出来高制の診療報酬体系では報われません。国民の生命を守る自衛隊に、国費が投入されているのと同様、救急患者などに備えていることに報酬を付けてもらえれば話は別です。しかし、そうでない以上、誰かがこの構造的な赤字をかぶらなければいけません。
民間病院は、赤字が出たらつぶれます。だから、自治体からの繰入金が認められる公立病院が「最後のとりで」となり、へき地医療や救急医療、災害医療などに取り組んできました。公的な病院はほかにもありますが、公立病院は特に、住民の厳しい目にさらされています。赤字でも、やらざるを得ないのです。
そんな公立病院では、総務省が07年に改革ガイドラインを策定してから、経営改革を進めています。改革の視点は3つあり、「経営効率化」と、病院の統廃合などの「再編・ネットワーク化」、地方公営企業法の全部適用や地方独立行政法人化といった「経営形態の見直し」のそれぞれで、着実に効果を上げています。
そして、昨年3月に新ガイドラインが公表され、4つ目の視点として「地域医療構想を踏まえた役割の明確化」が加わりました。各地の公立病院が現在、4つ目の視点を加えた20年度までの改革プランの策定を進めています。
国病143病院が4年後のあるべき姿を模索-民間じゃない病院の生き残り戦略(1)
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